ジブリは言わずと知れた、日本を代表するアニメ制作会社。
まだアニメと言うだけでオタク文化と蔑まれていた平成初期、唯一市民権を得ていて、むしろ日本の誇るブランドの一つとして扱われていたと言っても過言ではない存在です。
世界的なアニメ制作会社と言えばディズニーですが、日本にとってはそのディズニーに匹敵するほどの、いや、ジブリだけは大人たちも巻き込んで新作を待ち望むほどの特別な存在でした。
その原因を調べてみました。
スタジオジブリはオワコン?
公開年順に興行収入を比べてみましょう。
公開年 | 作品名 | 監督 | 興行収入 |
---|---|---|---|
1984年 | 風の谷のナウシカ | 宮崎駿 | 14.8億+7.3億(リバイバル上映) |
1986年 | 天空の城ラピュタ | 宮崎駿 | 11.6億 |
1988年 | となりのトトロ/火垂るの墓 | 宮崎駿/高畑勲 | 11.7億 |
1989年 | 魔女の宅急便 | 宮崎駿 | 36.5億 |
1991年 | おもひでぽろぽろ | 高畑勲 | 31.8億 |
1992年 | 紅の豚 | 宮崎駿 | 54億 |
1994年 | 平成狸合戦ぽんぽこ | 高畑勲 | 44.7億 |
1995年 | 耳をすませば | 近藤善文 | 31.5億 |
1997年 | もののけ姫 | 宮崎駿 | 193億+8.8億(リバイバル上映) |
1999年 | ホーホケキョ となりの山田くん | 高畑勲 | 15.6億 |
2001年 | 千と千尋の神隠し | 宮崎駿 | 304億+4億+8.8億(リバイバル上映) |
2002年 | 猫の恩返し | 森田宏幸 | 64.8億 |
2004年 | ハウルの動く城 | 宮崎駿 | 196億 |
2006年 | ゲド戦記 | 宮崎吾朗 | 76.5億+1.5億 |
2008年 | 崖の上のポニョ | 宮崎駿 | 155億 |
2010年 | 借りぐらしのアリエッティ | 米林宏昌 | 92.5億 |
2011年 | コクリコ坂から | 宮崎吾朗 | 44.6億 |
2013年 | 風立ちぬ | 宮崎駿 | 120.2億 |
2013年 | かぐや姫の物語 | 高畑勲 | 24.7億 |
2014年 | 思い出のマーニー | 米林宏昌 | 35.3億 |
2021年 | アーヤと魔女 | 宮崎吾朗 | 3億 |
なんと、処女作である『風邪の谷のナウシカ』から常に10桁代をキープ。
特に1997年『もののけ姫』以降は2013年『風立ちぬ』まで、宮崎吾朗監督『コクリコ坂から』と高畑勲監督『かぐや姫の物語』を除いて60億以上をキープ。
作品公開のペースも常に1~3年おきで、まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。
それが、2014年『思い出のマーニー』を最後にパタッと止まり、7年越しとなる2021年『アーヤと魔女』はまさかの3億。
これは確かに「オワコン」と言われてしまっても仕方のない成績だと言えます。
ジブリの人気が落ちた原因とは?
その原因と思われるものがいくつかあります。
ジブリ作品はサブスクで見られない
現代人のテレビ離れが進み、レンタルビデオ屋も縮小していく中、アニメ映画を見る手段として最もメジャーなのはサブスクです。
要は、大半の人たちが何かしらのインターネットの動画配信サービスを利用して見ているのです。
しかし、ジブリ作品は国内のサブスクには皆無です。
ジブリ作品を見ようと思ったら、レンタルビデオ屋で借りるか地上波放映を待つしかないのです。
一度契約すれば好きな時に手軽に、場所すら選ばず利用できるサブスクの便利さを知ってしまった人たちからすれば、わざわざそんな手間をかけなければ見られないジブリ作品にこだわる必要性が無いのです。
日本とアメリカ以外の国なら、ネットフリックスで全作公開しているらしいのですが、国内では一作も公開しておらず、疑問を抱かれています。
宮崎駿監督の引退宣言に伴うヒット
実は、もののけ姫以降の大ヒットにはあるカラクリもあります。
1997年『もののけ姫』公開時に、宮崎駿監督が引退宣言をしていたのです。
しかし、やがてそれを撤回。
その後、宮崎駿監督は新作を出しては引退宣言をし、しばらくして映画製作の疲れが癒え、次回作の構想が芽生える度に撤回してきました。
その数は少なくとも1997年、2001年、08年、13年の4回に上ります。(7回とする意見もあります)
そしてこの最新の2013年の引退宣言も2017年に撤回されており、もはや宮崎駿映画の風物詩となってしまいました。
しかし、『もののけ姫』の引退宣言のときは、世間にとっては青天の霹靂。
アニメ映画として不動の地位を築いた宮崎駿監督の引退作として大々的に取り上げられ、「最後の作品を劇場で確認しなければ」と多くの人が劇場に殺到しました。
2001年『千と千尋の神隠し』のときも同様に、引退宣言があり「今度こそ最後の作品か」と殺到し、皆が引退を偲んだあとでまたもや引退撤回。
2004年『ハウルの動く城』時の引退宣言のときにはもはや「ああ、またか…」「どうせ復帰するんでしょ?」と引退宣言事態にはあまり注目されなくなった、という背景もあります。
米林監督たちを大幅リストラ
実はスタジオジブリは、2014年『思い出のマーニー』を最後に制作部門を解体しています。
それに伴い、『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』を担当した米林宏昌監督始め、300人もの優秀な人材を一挙リストラしていたのです。
理由は経営難。
華々しい成績を上げているように見えたスタジオジブリですが、それを支える300人以上のハイレベルなクリエイターたちの人件費だけで一日数千万もかかっていました。
実は2004年『ハウルの動く城』以降の収入ではこの製作現場を維持できず、「せめて退職金を払えるうちに」とあえなく解体となってしまったそうです。
後進を育てられなかった
ジブリは宮崎駿監督と高畑勲監督の二代巨頭があまりにも偉大過ぎ、彼らの物差しとやり方だけが絶対となってしまいました。
特に宮崎駿監督は最も数字と影響力を持つ人物ですが、その反面偏屈で極端。
作品のために何もかもを投げ打つことを善とし、毒舌で、コミュニケーション能力に欠けるエピソードにも事欠きません。
天才とはそういうもの、だからこそ卓越した作品を生み出し続けてきたという現実もあるとは思いますが、
そんな宮崎監督と後進の間をつなげられる環境、クッションになれる人物が足りなかったのではないでしょうか。
ハウルはあまり大衆に受けなかった
これは私の所感ですが、『ハウルの動く城』はあまり大衆受けしなかったというか、映画を見た人自体は多かったものの反応がいまいちだったように感じています。
私自身も友人たちと連れ立って行ったのですが、実は『ハウルの動く城』の原作をすでに読んでおり(児童書好きの間では元々かなり人気のある作品でした)、「あれが映像化されるなんて!嬉しい!!」と期待していた分、「肩透かしを食ってしまった」という印象でした。
あまりにも原作のイメージが強すぎたのだろうか、と思っていたのですが、原作未読の人たちに感想を聞いてみたら軒並み「あれは何がしたかったの?」「意味がわからなかった」と困惑している人たちが続出。
その前作の『千と千尋の神隠し』も人を選ぶ内容で「意味がわからなかった」と言う人は少なくなかったのですが、意味は分からなくても圧倒的な世界観に引き込まれ、なんだかんだ「観てよかった」「また機会があれば観たい」という印象の人が多かったのに対し、『ハウルの動く城』はただただ困惑という印象で終わってしまった人が多かったように感じています。
原作好きの私個人の正直な感想を言えば「原作の良さが全部削ぎ落とされて、おきれいなラブストーリーにされた」という歯がゆいもの。
原作は、自己肯定感の低いヒロイン・ソフィーが老婆にされ、どん底に突き落とされることで「失うものは何もない」と吹っ切れて、今までとは逆に遠慮も我慢も取っ払って言いたいことを言い、やりたいことをやっていくはっちゃけ方が爽快。
魂を半分にされ現実感の薄かったハウルも、そんなソフィーのハチャメチャさに惹かれて活力をもらえるのですが、―――そんな印象、抱けますか?あの映画で。
様々な理由が絡んでいるでしょうが、『ハウルの動く城』が転機になってしまったのは間違いないと思います。
まとめ
ジブリの人気が低迷した原因は、サブスク皆無である上に、後進不足からの製作部門解体等の内部の事情がありました。
一時代を築いたジブリのオワコン化は、ジブリ世代としては悲しい限りですが、残念ながら得心がいってしまうのも事実。
宮崎駿監督と高畑勲監督の重圧を取り払い、心機一転できればいいのですが、なかなか難しそうです。