薬屋のひとりごとが2023年アニメ化することが決まり、長年のファンたちが喜んでいます。
薬屋のひとりごとは、後宮があった頃の中国をイメージした異世界を舞台に、元薬屋の猫猫(マオマオ)がその知識で後宮内の事件を紐解く、いわゆる中華ファンタジーミステリーです。
しかしこの薬屋のひとりごと、本屋に行くといくつかパターンがあることに気がついた方もいるでしょう。
薬屋のひとりごとは小説版2パターンと漫画版が2パターンの計4パターン発刊されているのです。
クロスオーバー等でもなく、本編だけで4パターンも刊行されているのは珍しいですよね。
アニメ化に先駆けて読んでおきたい人も多いでしょう。
「どれから読んだらいいのかわからない」という方のために、それぞれの特徴とどういう人におすすめなのかをご紹介しましょう!
小説版と漫画版がそれぞれ二種類ある
薬屋のひとりごとは以下の4パターンが出版されています。
- RayBooks版(小説) 著者:日向夏 イラスト:松田恵美(表紙のみ)
- ヒーロー文庫版(小説) 著者:日向夏 イラスト:しのとうこ
- 月刊ビッグガンガン版(漫画) 原作:日向夏 キャラクター原案:しのとうこ 作画:ねこクラゲ
- 月刊サンデーGX版(漫画) 原作:日向夏 キャラクター原案:しのとうこ 作画:倉田三ノ路
漫画版はどちらも『原作:日向夏』とあるためお察しいただけるかもしれませんが、小説の方が原作です。
実はさらに元をたどると、『小説家になろう』というアマチュアが自由に投稿できる小説サイトに投稿された作品が原作です。(これを入れると5パターンになってしまいますね…)
それが人気になったため、まずRayBooks版で第1部にあたる後宮編だけが書籍化されます。
その後人気が上がると、なぜか今度は同じ出版社(当時は「主婦の友社」でしたが現在は「主婦の友インフォス」と名を変えています)のヒーロー文庫版で加筆修正、新たなイラストレイターにしのとうこ先生を登用、挿絵を増やしてまた最初から出版しています。
結局RayBooks版は後宮編一冊のみで終了。その後小説はヒーロー文庫版からのみ続刊しているため、
今から小説を読むとしたら『小説家になろう』かヒーロー文庫版だけが選択肢となります。
これがさらに人気となり、まず月刊ビッグガンガンで漫画化、それからわずか3カ月後に今度は月刊サンデーGXでも漫画化し、両方ともそれぞれ看板作品となって現在に至ります。
小説版も漫画版もそれぞれすべて内容が同じで、しかもそれぞれに根強いファンが付き続けているという異色の作品だということになります。
先に言っておきますが、小説版も漫画版も、なぜそれぞれ2パターンあるのかの理由は公式からは説明されていません(2023年2月28日現在)
漫画版に至っては原作者日向夏先生ご本人も理由がわからないとTwitterでこぼされていた過去があります。
ビッグガンガンもサンデーGXも、同時期にコミカライズを打診し、何らかの理由で両方OKになったのでしょうが…現段階では何を言ってもすべてただの推測の域を出ませんので、ここではこれ以上触れません。
小説版
『小説家になろう』版とヒーロー文庫版があるわけですが、
ただ、小説家になろう版は無料でネット上でいち早く読めるという最も手軽な手段ですので、「とりあえず試しに読んでみたい」という人は小説家になろう版を読んでみてから他作品を模索するのも有りでしょう。
小説版と漫画版を比べるとどう違うのか
私は先に漫画版二作を見てから小説版を読んでみましたが、漫画版二作では描き切れなかったところも結構あることに気が付きました。
全体的に説明が文章で明らかにされているため「あれはこういう意味だったのか」と飲み込みやすいです。
例えば、猫猫が梨花妃の下女にキレた姿を壬氏(ジンシ)に「女とは本当に恐ろしい」と評されるシーンがあるのですが、
原作ではそれより先に、猫猫を邪険に扱っていた下女が壬氏の前では態度が豹変するのを見た猫猫が「女とは本当に恐ろしい」と評する一文があったため、そことかけていることがわかります。
つまり、下女たちを「女とは本当に恐ろしい」とみていた猫猫自身も「女とは本当に恐ろしい」と言わせる姿を見せてしまった、という皮肉を込めたシーンなのですが、漫画版では二作とも先の一文が抜けているため、ただ壬氏に猫猫が「恐ろしい」と思われただけになってしまっていました。
当たり前ですが、小説は文章ですべてを表現するため、ちょっとした一文を別のシーンにかけるという演出もしやすいのですが、絵がメインの漫画版でそれをすべて表現するのは無理があるので、
作品の解像度を重視する方は小説版一択ではないかと思います。
月刊ビッグガンガン版
三作の中で透明感と華やかさが一番高いので、アニメ映えしやすかったのでしょう。
画面のメリハリのつけ方が上手なこと、花を多用した背景や表現も目を引きます。
舞台が女人の園・後宮ですし、姫たちは名に花の名を付けられていたり花に例えられたりすることが多いため、花を多用した表現がとても似合います。
全体的に表情もくるくると変わり、漫画らしくコミカルで絵にリズム感があるのはビッグガンガン版です。
月刊サンデーGX版
ビッグガンガン版とは打って変わって、落ち着いた絵柄が特徴です。
ビッグガンガン版はおそらく猫猫という名前から猫猫をチャーミングなデザインで描いたのでしょうが、
サンデーGX版の猫猫は後宮という独特な世界から一歩引いた大人びた雰囲気を強調して描かれています。
漫画化に合わせてセリフ回しなど少し手を加えられていたりしますが、取捨選択が上手で、小説版では知識がないと少しわかりにくいところなどもわかりやすくなるよう構成しなおされています。
あえてセリフ回しを変えたりシーンの順番を入れ替えていたりするのも、小説をどう漫画に落とし込んだらわかりやすいのかを徹底的にかみ砕いて再構築している印象を受けます。
それに、各エピソードを最小限の話数できっちりまとめているため、ビッグガンガン版と比べても展開が早く、短い時間で読みやすくできています。
また、猫猫が壬氏に頼まれて媚薬を作る一幕がありますが、それが何の目的で作られたのかは原作小説でもビッグガンガン版でも名言されていない中、このサンデーGXだけ唯一(猫猫の推測ではありますが)明らかにしています。
ただ、原作小説の方では少し後の話の中で、侍女たちのうわさ話として次のような話がもれます。
「宮中の女官が媚薬を使って女嫌いの堅物武官を落としたのよ」
なる話を聞いてなんだか冷や汗をかいた。
(うん、たぶん関係ないはず。たぶん)
そういえば、誰に使うのかまったく聞いていなかった気がする。
薬屋のひとりごと 15 炎(https://ncode.syosetu.com/n9636x/15/)
漫画版二作ではこの噂話には触れられていないので、サンデーGX版で明らかにされた媚薬の目的が公式見解なのかサンデーGX版オリジナル見解なのかは定かではありません。
とはいえ、話がコンパクトに、しかし原作でつかみきれなかったところも上手に補足されているため、手短に———特にアニメ化までに最速で内容を把握したい人はサンデーGX版を強くお勧めします!!
まとめ
小説版と漫画版二作がそれぞれどんな人におすすめなのかまとめますと、
- 情報量と解像度にこだわる人は原作小説版
- 鮮やかでコミカルな漫画らしさを楽しみたい人はビッグガンガン版
- 最速でわかりやすさを求める人はサンデーGX版
となります。
でも結局、それぞれに良さがあるため全部読み比べているファンも少なくない罪づくりな『薬屋のひとりごと』。
アニメ版はどのように描かれるのか、楽しみですね!