X(旧Twitter)の仕様変更により、今まで頼りにされてきた防災情報が使い物にならないと問題視されています。
XことTwitterといえば、知名度は元より情報収集元として利用する人も多いほど「今現在の最新情報を瞬時に入手できる」と言う点で他SNSの追随を許さずにきました。
その利点を生かし、災害時には防災情報や避難情報、被害・生存確認の手段として、一般人も行政も積極的に利用してきたという背景があります。
実際に『Twitter 災害』『Twitter 地震』などで検索すると、緊急時のTwitter活用方法まとめサイトが乱立するほど頼りにされてきました。
しかし、2023年に入り、仕様変更によりXが防災情報元として使い物にならなくなり、それを理由に撤退や移籍に踏み切るアカウントが続出しているといいます。
どのようなアカウントが撤退に追い込まれているのか、なぜXが防災情報元として使い物にならなくなったのか等を調べてみました!
Twitterが防災に役立てられてきた理由は?
今やSNSは多岐にわたる中、Twitterが突出して防災に役立てられてきた理由には以下のようなものがあります。
圧倒的な知名度
まずは、何においてもこれでしょう。
ネットをしたことが無いご老人や子どもですら『Twitter』と言う名前に聞き覚えが無い人はいないほど、Twitterはことあるごとにメディアに取り上げられ、SNSの代表となりました。
防災において、まずはそのツールが周知されていなければ話になりませんし、知名度は高ければ高いほど緊急時の混乱のさなかでも頼りになるのは自明の理です。
アカウントが無くても情報確認可能
多くのSNSが、そのSNSのアプリをダウンロードしたりアカウント作成しないと中を見られないのに対し、Twitterの強みは「アカウントが無く、アプリを落としていなくても中身を読むことができる」という事でした。
ブラウザで検索さえすれば、Twitterへのアクセスはおろか、アカウント名や投稿内容も検索で指定して絞り込むことができるのです。
必要な情報だけ簡潔に流せる
他SNSの多くが画像や動画ありき、サークルなどのコミュニティありきであるのに対し、Twitterの主体は文字情報。
それも140字という短い文字制限がありました。
これのおかげで容量が軽く、必要な情報を一目でピックアップしやすいこともTwitterの利点です。
Twitterほどあまたの情報を持ちながら取捨選択まで容易な情報ツールは他になかったのです。
問題になったXの仕様変更とは?
上記利点を挙げる際、今や旧名となってしまった『Twitter』と言う名前で説明しました。
なぜなら、名前が『X』になった今、上記利点がすっかり様変わりしてしまったからです。
投稿数の制限
多くの自治体では、避難情報などを状況変化に応じて迅速に発信するため、自動投稿システムも使われてきました。
それが、自動投稿の回数が一日50件に制限されるようになり、実際に大雨時の投稿ができず困る自治体も出、Twitterでの投稿を断念する流れが出てきています。
5月初めにX社(当時Twitter社)は「気象警報、最新の交通情報、緊急通知をツイートする検証済みの政府・公営のサービスは、重要な目的のためにAPIを無料で使用できる」としていますが、
無料利用のためには認証済みアカウント(有料)を取得する必要がある、というダブルバインド。
資金に限りのある自治体が継続してSNS費用を捻出することは、現実的に難しいと判断されることも少なくありません。
Twitter→Xへの改名
また、7月末にTwitter社は突然X社へアカウント名を変えてしまいました。
改名にまつわる周知徹底がおざなりだったため、ネットに疎い人、ネットはしていてもTwitterに疎い人には未だ知られていません。
一番の強みだった「知名度」を自ら放棄してしまったのです。
それも新しい名前が『X』とアルファベット一文字のため、検索しようにも『X』と入る文字列が片っ端から検索候補に引っかかり、『ブラウザで検索して即アクセスできる』という利点が消失。
そのうえ、X社になるに合わせて『リツイート→再投稿』『tweetを取得→ポストする』など用語もこまごまと変更され(いまだ日本語訳が決定しておらず、英文表示のものすらあります)、正しい情報を発信しなければいけない行政やニュースにおいて、これらの変更全てを把握し正しく使用することに不必要な手間がかかります。
これらのことが足を引っ張り、一刻を争う緊急時の情報収集に不向きなツールとなってしまいました。
仕様が不安定
2023年6月30日~7月1日頃、ログインしなければTwitterを見られない事態が発生しました。
一時的なもので一両日中に復旧はしましたが、当時は「有料化を進めるためにログイン必須の仕様になったのか」等憶測が飛び交いましたし、一度あったトラブルがまた起こらないとは限りません。
X(Twitter)は他にも、イーロン・マスク氏が介入してからトラブルと唐突な仕様変更が多発しており、仕様の不安定さからユーザーに不信感を抱かれています。
平常時ですらいつアクセスできなくなるかわからないツールを、混乱必須な災害時に活用できるとは思えません。
一部文字制限の拡充
Twitterは良くも悪くも140字(半角280字)という文字数制限に縛られた世界でしたが、
有料アカウントTwitter blueの登場により、認証済みアカウントを取得できれば一度に4000文字も投稿できるようになりました。
しかし、迅速に情報を取捨選択したい災害時に、表示が折りたたまれてしまう4000文字は大きなネックです。
一目で内容が把握できません。
その情報が今現在必要か不必要かの選択に手間取る仕様は、災害時には足手まといになるのです。
行政や有名アカウントの動向
これらの仕様変更が障害となり、実際にTwitterでの情報発信を断念したアカウントがあります。
動きが顕著なのは、夏場に大雨や台風での被害が免れない九州です。
鹿児島県のアカウント
鹿児島県では6月にすでに、それまで自動投稿していた高齢者等避難の情報、避難指示などの避難情報、避難所の開設情報などの投稿を停止。
大雨の特別警報、土砂災害警戒情報など迅速な情報発信が求められるものは手動で投稿する形に切り替えています。
熊本県のアカウント
熊本県は2023年6月30日や7月3日に、相次ぐ大雨でその都度流していた避難情報などが投稿できなくなりました。
県が調べたところ、自動投稿が一日50件に制限されていることが判明。
45の市町村を持つ熊本県では50件ではとても情報を賄いきれないため、7月5日にTwitterでの情報発信を停止。
県のホームページや防災メールで対応するよう呼び掛けています。
長崎県のアカウント
長崎県でも自動投稿していた気象や河川の情報にまつわる今後の対応を検討しています。
特務機関NERV
民間アカウントではありますが、全国の災害情報防災情報を統括してきたアカウント「特務機関NERV」も「NERV防災アプリ」に順次切り替えていくことを宣言し、大きな波紋を呼んでいます。
X(旧Twitter)APIのレート制限が厳しいため、停電情報と避難情報の投稿を停止しました。更新が多い情報はXでの投稿を縮小し、NERV防災アプリ(https://t.co/3zXwADWp6H)・ActivityPub(https://t.co/5FEhxCVHzL)での配信に順次切り替えていく方針です。ご理解いただけますようお願い申し上げます。
— 特務機関NERV (@UN_NERV) August 7, 2023
特務機関NERVの情報発信力は素晴らしく、所在地以外の情報もリアルタイムで的確に取得できるため、自分たちの身の安全だけでなく知人の安否確認等に利用していた人も膨大にいます。
その特務機関NERVが撤退してしまうことは、Xにとって大きな打撃となるでしょう。
まとめ
災害大国日本において災害時の情報ツールとしてTwitterはあまりにも優秀でした。
しかし、災害時に不向きな仕様変更と不安定さが相次ぎ、ユーザー減少に拍車がかかりそうです。
そもそも、一介の民間企業でしかないTwitterに行政も依存過ぎた弊害かもしれませんが、
マイナカードや接触確認アプリCOCOAのお粗末さを見ると、日本の行政による優秀なSNS開発など期待できそうにありません。
災害時の情報発信に大きな課題ができてしまいました。