ジブリが日テレの子会社になる、というニュースが2023年9月21日に飛び込み、日本中に激震が走りました。
ジブリことスタジオジブリといえば、日本のアニメ映画界を代表するブランド。
宣伝をあえてせずに2023年7月14日に公開された映画『君たちはどう生きるか』も興行成績は上々で、ジブリ人気、宮崎駿監督の人気を証明したばかりだというのに、なぜ子会社化しなければいけないのでしょうか。
ここでは、ジブリが日テレの子会社になる理由や、いまだ国内でネット配信の無いジブリ作品が配信サイトHuluで配信される可能性があるのか等を考察します!
ジブリの育成下手
一番の原因はこれでしょう。
ファンの間ではもはや有名な話であり、今回、日テレ傘下に入るための会見で鈴木敏夫社長自身もはっきりと「失敗した」と認めていました。
スタジオジブリは、宮崎駿監督・高畑勲監督に続く後継者を育てることができなかったのです。
両監督以外の監督たち
宮崎・高畑両氏に認められた最有力候補であった『耳をすませば』の近藤喜文監督が、1998年に47歳の若さで急逝。
その後も『猫の恩返し』の森田宏幸監督、宮崎駿監督の実子である宮崎吾郎監督なども輩出しましたが、興行収入は今一つ伸び切らず。
『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』の米林宏昌監督は、経営難を理由とした300人大幅解雇の時にリストラされてしまいました。
さらにはジブリ二大巨塔の一人であった高畑勲監督も2018年に逝去。
2023年現在、宮崎駿監督82歳、鈴木敏夫社長75歳という高齢を考えたら、現実的に潮時であることを認めざるを得なかったのでしょう。
300人の大幅リストラ
『思い出のマーニー』直後の米林監督含む制作部門の解体・大幅リストラがやはり大きな転機となってしまったのではないでしょうか。
当時、ジブリはクオリティを求めるばかりに、人件費だけで一日数千万かかってしまう状態に陥っていました。
しかし『ハウルの動く城』以降の収入ではこれを賄いきれず、300人もの優秀なクリエイターたちを手放すことになりました。
今回の会見で鈴木社長は、今後は地上波アニメで後進を育てることを考えているようですが、劇場アニメに固執せず、この方針がもっと早く出ていたら違っていたことでしょう。
地上波アニメなどの小作品で収入の維持と後進の経験と挑戦を増やす、という足がかりも無く、いきなり『劇場アニメ』と言う大作を担わせるのは、最初からハイレベルな人材を求めすぎたのかもしれません。
一作限りのテレビアニメ作品
『海がきこえる』は、監督こそ外部から望月智充監督を起用しましたが、日テレ開局40周年記念番組として作られたジブリ唯一のテレビアニメ。
その製作理由も、鈴木敏夫プロデューサー(当時)が若手育成のために若手スタッフだけで制作させたというもの。
ただし、「スタジオジブリ史上最も予算の回収に苦労した」ためにこの試みは一作でとん挫してしまったそうですが、今思えば実にもったいなかったと感じます。
一度限りのスペシャル番組ではなく、ショートでもいいので定期的に放映する作品であればまた違ったのかもしれませんが…今となっては一ファンのただの戯言ですね。
宮崎吾郎さんに背負わせないという決断
監督としては賛否両論あるものの、鈴木社長に言わせると宮崎吾郎監督はプロデュース力のある方だそうで、鈴木社長は宮崎吾郎監督を次期社長にと吾郎監督自身にも宮崎駿監督にも働きかけ続けていたようです。
しかし、吾郎監督自身に「一人でジブリを背負うことは難しい、会社の将来については他に任せた方が良い」と断られ、
宮崎駿監督にも「宮崎という名前のもと、ジブリを支配するのは違うのではないかと。もっと広い目でやったほうがいい」と反対され続けたため断念したとのことです。
私自身は世間の評判ほど宮崎吾郎作品を低く評価してはいませんが、確かにここでプロデュース力があるとはいえ宮崎吾郎監督を後継に建てると、スタジオジブリが宮崎一族のものと見られてしまい、ジブリの今後がより狭まってしまうように思えるので、この決断はよかったのではないかと考えます。
ジブリらしさとは?
今回の会見。鈴木社長の発言の中で個人的に引っかかった部分があります。
「君たちはどう生きるか」という映画をつくったが、客観的に作品をみると「これ大変だな」と思った。同じものを要求されたら、今の若い人たち作れませんよね。それを強く感じました。
私はまだ『君たちはどう生きるか』を観てはいませんが、評判の高さといい、素晴らしい出来であることは間違いないのでしょう。
やはり宮崎駿作品、高畑勲作品は唯一無二の作品をその都度生み出してきました。その信頼の厚さは狂信的と言えるほどです。
ただ、何故若い人…というか、他人に『同じものを作らせる』前提で物事を測るのでしょうか?
世の中に『名作』と呼ばれるものは数多あります。
例えば宮崎駿監督が、高畑勲監督が、「ブラックジャック」と同じものを描けるのでしょうか?「ベルサイユのばら」を描けるのでしょうか?「ドラゴンボール」を?「鬼滅の刃」を?「Fate」を描けるのでしょうか?
鈴木社長のこのコメントから「スタジオジブリは『宮崎駿・高畑勲監督のもの』という枠組みから未だ抜け出せていないのだな」と感じました。
確かにお二方は天才です。
しかし、どんなに天才であっても「その人にしか描けない作品」を描いてこそ、人の心に残る作品を作れるのではないでしょうか。
『宮崎駿監督・高畑勲監督のような作品』を宮崎駿監督・高畑勲監督同等以上に描ける人なんているわけがない。
それなのに、いつまで『宮崎駿作品』『高畑勲作品』を作る人にこだわり続けるのでしょう。
お二人個人の『らしさ』しか認められないなら、お二人が作れなくなると同時に終わってしまうのは当然ではありませんか。
『ジブリらしさ』って、そんなに限定的で排他的で狭苦しいものなのでしょうか?
ジブリと日テレの関係性
『風の谷のナウシカ』のテレビ放映、さらには『魔女の宅急便』で日テレが製作協力して以降、ジブリと日テレは長年の付き合いとなりました。
ジブリ作品が金曜ロードショーの看板作品となっているのも、日テレが製作協力し続けているからこそ。
経営難にあえぐジブリが日テレを頼ったのも、自然な流れだと言えます。
日テレにとっても、若者中心にテレビ離れが進む現在でも毎回高視聴率をたたき出してくれるジブリを子会社に迎えることはメリットが大きいはずです。
特に、ジブリのキャラクターは老若男女問わず受けがいいので、今後はジブリのキャラクターが日テレの宣伝やイベントに駆り出されるかもしれません。
この予想に関しては、ファンの間でも賛否あり、ジブリのキャラクターが今後どのように扱われるのかは注目を浴びそうです。
ジブリ作品は尖ったメッセージ性を持つ作品も多いので、ご都合主義に使ったりして作品のイメージを損なわないよう、扱い方に気を付けてほしいですね。
Huluで配信ある?
ジブリ作品はこれだけ人気なのに、国内の動画配信サイトでの配信が皆無であることも有名です。
しかし、日テレは定額動画配信サービス『Hulu』の運営会社も子会社に持っています。
このことから「ジブリが日テレの子会社になるのなら、ジブリ作品がHuluで見られるようになるのでは」と期待する人も多いようです。
ジブリ作品は権利関係が複雑
しかし、ジブリ作品が現在まで配信されていない事情には、ジブリ作品の権利関係の複雑さがあります。
ジブリ作品の多くは製作委員会に、日テレの他にもDisneyなどの名だたる競合他社が名を連ねています。
著作権法上、製作委員会全員の合意が無ければ配信には踏み切れないのです。
日テレとジブリだけの判断では配信できず、日テレは元々製作委員会に入っていたのに現在配信に踏み切れていないことを考えると、日テレの子会社になったからといって配信できるかはまた別問題なのかもしれません。
それに、日テレはあくまでもテレビ局。時代柄配信サービスなどに手を出しているとはいえ、優先順位で言えば配信サービスで稼ぐよりも番組の視聴率を上げることに軍配が上がるでしょう。
金曜ロードショーで確実に視聴率を稼いでくれるジブリ作品をみすみす配信するでしょうか…
ジブリがテレビアニメに意欲を見せている今、ジブリ作アニメは配信サービスへ、しかし過去のジブリ作品は金曜ロードショー独占、という形で収める可能性も高そうです。
まとめ
まさに青天のへきれきとなったジブリの日テレ子会社化ニュース。
一時代を築いたジブリが日テレの子会社になることでどのように変わっていくのか、ファンは固唾をのんで見守っています。
どうか今までのイメージを損なう事の無いよう、しかし新しい道を切り開いてほしい。
これが活路を開いてくれる英断となる事を祈りましょう。