『ゆびさきと恋々』は聴覚障碍者の女子大学生雪とその周りの恋愛模様を描くピュアラブストーリー。
恋愛ものとしてクオリティが高いことに加え、聴覚障碍者である雪の表現や手話での会話などの描写が丁寧なことに定評があります。
「聴覚障害」を漫画で表現することも難しいですが、アニメ化するとさらに動きや音が加わるためごまかしがきかず、難しい面があります。
しかし、アニメ『ゆびさきと恋々』は「聴覚障害」を上手に演出し、丁寧に描写していることが評判を呼んでいます。
アニメ化するにあたって『ゆびさきと恋々』にどんなこだわりが反映されているのでしょうか。
また、OPに登場する手話の意味や、聖地がどこなのかなど、『ゆびさきと恋々』アニメスタッフのこだわりをご紹介していきます!
ゆびさきと恋々のOPの手話の意味は?
アニメ『ゆびさきと恋々』を見て最初に驚かされたのが、OPで滑らかにのびのびと動く手話でした。
私は、友人が手話同好会にいたので、手話に接する機会がある方でしたが、OPの手話はまさに「手話に慣れている人の、感情のこもった言葉」としての手話の動きで、すごく感動したのです。
ただ、私はあくまでも素人なので、この手話がなんて言っているのかわからない!手話にも字幕ほしい!
と、歯がゆく思ったので、OP手話の意味を調べてみました。
OPには2回手話が出て来ます。
- 開始27秒で、登校中に逸臣が雪に送る手話
- 開始48秒で、駅のホームに立つ逸臣が雪に送る手話
そういえば、OPで手話をするのは、聴覚障碍者の雪の方ではなく逸臣の方ですね。
逸臣が、雪と出会って早々、積極的に手話を学ぶような人柄であることが表現されているのでしょうか。
① 開始27秒:登校中の手話
最初の手話は、「やあ」と言うように手を挙げてから、片手の拳を上から下に降ろすシンプルなもの。
これは「おはよう」という意味のようです。
しかし、「おはよう」という意味の手話を探すと、多くの場合「拳を上から下に降ろすしぐさ」の後に「両人差し指を向き合わせて折り曲げる動作」も入ります。
実際に調べて「え、逸臣のこの動きで「おはよう」なの?少し違わない?」と思う人もいるかもしれませんね。
「拳を上から下に降ろすしぐさ」だけだと本来は「朝」というだけの意味です。
「両人差し指を向き合わせて折り曲げる仕草」は挨拶全般の語尾に使われる「丁寧なあいさつ」を表現する動きなので、「朝」と「丁寧なあいさつ」を組み合わせることで「朝のあいさつ=おはようございます」を表現するのです。
ただ、親しい間柄ではこの「丁寧なあいさつ」をあえて取り除いて「朝」の手話だけで「おはよう」を表現することがあるんですね。
そして、最初に手を挙げる仕草は、恐らく単純に「雪に対して発信している」と意思を明確にし注目させるための動作だろうと思います。言葉に直すと「やあ」くらいの意味でしょうか。そのままですね。
つまり、このワンシーンだけで「手話を知りたての教科書通りの手話」ではなく「親しい者同士の手慣れたコミュニケーションとしての手話」が表現されているわけです。
② 開始48秒:駅のホームでの手話
駅のホームでの手話は、三つの動作で成り立っています。
最初に、両手でボールを持っているように丸を表現し、上から下にくるっと回すようなしぐさ。これは「世界」と言う意味です。
次に、縦長のモノを測るように両親指と人差し指を広げて上下に置き、下の手が上の手を追い越すような動き。これは「もっと」と言う意味です。
最後に、両手の親指と小指だけを広げて向き合わせて合わせ、横に広げる動き。これは「広い」と言う意味です。
繋げると「世界はもっと広い」という意味です。
一話の最後まで見てからこの手話を見ると、逸臣の清々しい笑顔も相まってジンとくるものがありますね。
ちなみに、この「広い」という手話も、調べてみると手が拳だったり、親指と人差し指を広げていたりと種類がありますが、どれも間違いではなくニュアンスで使い分けているそうです。
ゆびさきと恋々の聖地はどこ?
『ゆびさきと恋々』は、背景のロケ地、いわゆる聖地もハッキリしています。
逸臣がバイトしているカフェバーも、実在するお店がモデルになっているんですよ!
同志社大学
雪たちが通う大学は同志社大学がモデルのようです!
ロッキンロビン大須店
逸臣がバイトをするカフェバーは、ロッキンロビン大須店という実在のバーです。
店名までそのまま使っているんですね!
本物のバーなので、雪気分で飲食を楽しむことができますよ♪
南与野駅
OPなどに登場する駅は、南与野駅がモデルです。
電光掲示板の表記は埼京線だそうですよ!
その他にも、
電車のデザインは京葉線では…?
電車の路線図は京王線…?
などの憶測も飛び交っているようですが、特定とまではいかないようです。
浦和駅周辺
街中は浦和駅周辺のようです。
雪が一人で歩いていた道は、浦和駅から3キロほど東南東にある円正寺緑道辺りですし、
雪と逸臣が連絡先を交換するところは明花公園の前辺りだそうですよ。
『聴覚障害』を描くためのこだわり
聴覚障害を描くにあたって、製作側が良い意味でこだわりを見せたり、オリジナル描写を入れてくれています。
手話の動きが「ロトスコープ(実写を映し取り込む技法)か⁉」と言うぐらいわかりやすく滑らかなだけでなく、キャラクターそれぞれにあった動きで手話の口調まで表現していたり、
逸臣たちが普通にしゃべるときと、雪に向けて読唇しやすいようわかりやすく口を動かすときのリアルさをかき分けていたり、
でも書き込み過ぎるわけではなく、ディフォルメの時はあえてシンプルに描いてメリハリを出していたりと、描写の足し引き間隔が素晴らしいです。
繊細なところを上げると、例えば、雪視点のシーンの時は無音になって画面の彩度が上がったり(これが「雪の世界」ってことなんでしょうね)、
あえて字幕ではなく「文字」を直接画面に入れ込むシーンがあったり、
キャラクターの心の動きに合わせて、淡く色づいたり、逆に強い光が差し込んだり、その光で影が濃くなったり、
聴覚描写も心理描写も両立させながら、常に画面が表現力豊かでほれぼれとしてしまいます。
それというのも、監督村野佑太さんのこだわりが強いことと、それを実現できるスタッフがいるおかげで…これを週1のアニメでやるの、すごすぎます…
#ゆびさきと恋々 制作裏話
— 村野佑太 Yuta Murano (@TaketonboStudio) January 8, 2024
電車内から見える車窓の風景は、同角度で撮影した実写映像をはめ込んでいます。
劇場作品等の予算のある作品は別として、通常TVアニメでは窓の外は白く飛ばしつつ効果音で走行感を演出することが多かったりします。
ただ、それだと耳の聞こえない人がこの作品を見た時に→ pic.twitter.com/BG7dPcOWtu
#ゆびさきと恋々 制作裏話②
— 村野佑太 Yuta Murano (@TaketonboStudio) January 14, 2024
監督を担当することになって最初に行ったのは、森下先生が原作をスタートさせる際に必要とした参考文献を全部教えてもらい自分に叩き込むこと。連載時に反響の高かったシーン・表情・台詞に全て付箋を貼って提出してもらうことでした。
原作との解釈違いを潰す為です→ pic.twitter.com/WCU6IkQXrh
まとめ
聴覚障害の少女を主人公とするラブストーリー『ゆびさきと恋々』。
テーマも難しく、表現力も試される作品ですが、作品に必要なものを十分に発揮してくれるアニメ化で驚きました。
この丁寧さで最終話まで描き切ってほしいですね!