ダークスカイこと『ひろがるスカイ!プリキュア』の主人公「キュアスカイ」の闇落ち姿が登場したことで、ネット界隈が沸きました。
X(旧Twitter)のトレンドにもダークスカイ(ダークキュアスカイとも)関連のワードが上がり、登場したその日のうちにダークスカイを題材にしたイラストが溢れる事態に。
主人公の闇落ち展開は王道の一つですが、なぜダークスカイはここまで話題になったのでしょうか。
その理由は、プリキュア20年の長い歴史の中にありました。
ダークキュアスカイ登場の流れ
608日目。スカイとダークスカイ。 pic.twitter.com/JlntKfLweR
— Mentarou (@Itaoka1) January 21, 2024
ダークスカイは公式の名称ではありません。
実は、ダークスカイが誕生してから消滅するまで5分足らずと大変短く、怒涛の展開で正式名称を与える隙も無かったのです。
見ていない人には「なんだ、たった5分かよ」と思われるかもしれませんが、この5分の急展開が濃厚過ぎて、視聴者たちの心を鷲掴みにしてしまったのです。
ダークスカイ登場話
ダークスカイが登場したのは、最終話直前の
第49話『キュアスカイと最強の力 』
でした!
サブタイトルからはちょっと、闇落ち展開は想像できませんでした。
あらすじ
それまでの話では、アンダーグ帝国の支配者カイゼリンこそがラスボスであり、
かつては同盟を結んだこともあったカイゼリンの父カイザーを、当時のスカイランドのプリンセス・エルレインが殺したことがカイゼリンの動機だと語られていました。
しかし、カイゼリンを愛し支えてきたはずのスキアヘッドがカイゼリンを後ろから刺し、「役立たず」だのと酷い言葉を浴びせ始めます。
実はカイザーを打った真犯人はスキアヘッドであり、カイゼリンの記憶を改ざんしてスカイランドやプリキュアたちと敵対するように仕向けていました。
アンダーグ帝国の刺客の一人であり、カイゼリンの側近に過ぎないと思われていたスキアヘッドこそ、カイゼリンを操りアンダーグ帝国を牛耳る黒幕、アンダーグエナジーの化身ダークヘッドだったのです。
最強の力を欲するダークヘッドは、最強の力を扱う『容れ物』を求めていましたが、カイゼリンでは力不足でした。
そこで、傷ついたカイゼリンを人質に、プリキュアたちをアンダーグ帝国へと誘い込みます。
プリキュアたちは罠を覚悟で、ダークヘッドとカイゼリンを追ってアンダーグ帝国へと乗り込みます。
まず現れた無数のランボーグ達を、キュアバタフライとキュアウィングが請け負い、他の三人を先に行かせます。
次に現れた巨大ランボーグを、今度はキュアマジェスティが足止めします。
残ったキュアスカイとキュアプリズムの二人は、ダークヘッドとカイゼリンに追いつくことができました。
しかし、そこはアンダーグエナジーの毒の海に囲まれた絶壁。
アンダーグ帝国の人間ではないキュアスカイとキュアプリズムは、毒によって動けなくなってしまいます。
ダークヘッドは、今度は先に気を失ったキュアプリズムを人質にし、キュアスカイに「最強の力」すなわちアンダーグエナジーを求めるよう促します。
キュアスカイは当然拒絶しますが、目の前で毒の海の上にぶら下げられ、ガクン、ガクンと海に向かって下降させられていくキュアプリズムに動揺を隠せません。
そしてまた、プリズムの位置が大きく下がった瞬間、アンダーグエナジーがキュアスカイの身体に飛び込みました。
ほんの一瞬、プリズムを助けるために抗おうとしたその心を、アンダーグエナジーは見逃さなかったのです。
ダークスカイかっこよかった^o^
— くらくらグマ® (@kurakuraguma) January 21, 2024
スカイを信じて一歩も引かなかったプリズムもアツい☺️#precure #ひろプリ pic.twitter.com/nD6jN3Eaci
アンダーグエナジーを取り込んだスカイは飛翔能力も手に入れ、プリズムの救出に成功します。
かろうじて残った正義の心は目元に炎の輝きとして灯りますが、風前の灯火のごとく揺らぎ続けます。
スカイはその力でダークヘッドに立ち向かいますが、攻撃を繰り出すたびにアンダーグエナジーが侵食し、ついには支配されてしまいました。
眼の光が消え、アンダーグエナジーに染まったスカイの身体にダークヘッドが乗り移り、目は血の色に染まりました。
目を覚ましたプリズムに、虚ろな瞳で襲い掛かるダークスカイ。
そんなスカイにプリズムは毅然と立ちはだかりました。
ただ、立ちはだかっただけでした。
拳を交えるわけでもなく、優しい言葉をかけることも無く、ただ、スカイを信じて見つめるプリズムの姿に、スカイは最後の力を振り絞ってダークヘッドを抑え込みました。
プリズムの浄化技プリズムシャインを浴び、ダークヘッドはスカイの身体から吹き飛ばされ、カイゼリンの傷も癒されました。
ダークスカイ人気の理由
第49話放映終了するや否や、SNS上では闇落ち展開への驚きの声で溢れました。
とくにダークスカイは人気が高く、ダークスカイの二次創作イラストが滝のように流れてきて驚きました。
ビジュアルが格好いい!
ダークスカイさん、
— 人間ひっ格 (@sakura8244) January 21, 2024
わずか5分ほどの出番で
全国のプリキュア絵師を
アンダーグエナジーの入れ物に変えてしまう#precure pic.twitter.com/3sPL9HXu4p
まずは何を差し置いても、圧倒的に「ビジュアルが格好いい」。
本来のキュアスカイと基本デザインはそのままに、カラーリングと一部モチーフを変えているだけなのですが、それだけでキュアスカイの爽やかさから一点、ギョッとするほどの悪役ビジュアルに変貌することには驚きました。
それも、闇落ち当初は瞳にキュアスカイを象徴する青い炎を灯すことで「かろうじて正義の心が残っている」ことを示しますが、この炎が火力が強いのに常に強風にあおられるかのように大きく揺らぎ続けることでスカイの葛藤を表現し、完全に炎が消えることで「正義の心の敗北」、赤く染まることで「ダークヘッドの容れ物」と、視覚的に闇落ちを段階的に表現していて、登場ほんの数分でも目が離せなくなってしまいました!(早口)
目が青い炎の状態も、赤く染まった状態も、どちらでも中二心を打ち抜くには十分すぎるビジュアルの暴力で、キュアスカイのデザイン事態がこの闇落ち後も計算に入れたデザインだったのだろうと考えられます。
キュアスカイ と ダークキュアスカイ#闇落ちスカイ #ダークスカイ#ひろがるスカイプリキュア #precure pic.twitter.com/5mgEM8nMLm
— ヨゾラ・ハレワタール (@yoru_sora_hare) January 22, 2024
ちなみに「目に青い炎がともる黒いツインテ少女」ということで、『ブラックロック★シューター』を思い出した人も多かったようです。
プリズムとの対比
ダークスカイのビジュアルについて語るときに外せないのが、プリズムとの対比です。
キュアプリズムは「プリズム」と名を冠しておきながら、虹色よりも白の分量の多いデザインであることがひっかかっていました。
それも恐らく、このダークスカイと対立した時に「白と黒」という対比を作るためだったのでしょう。
この「白と黒」は「光と闇」「正義と悪」と言うだけでなく、プリキュアの過去作の中で一度だけあったキュアブラックとキュアホワイトの闇落ち展開をも意識しているのだろう、という指摘があります。
スカイもプリズムも、この闇落ち展開を想定したデザインだったのでしょうね!
闇落ち→光落ちの流れが最高!
第49話は情報量が多すぎました。
まずダークヘッドの元にたどり着くまでに他の仲間たちが敵を足止めするために次々と離脱していくシーン。
王道ですが、ここでの言葉かけ一つ一つが各キャラのファン心理をくすぐる上手いセリフ回しで、この時点で悶絶するファンをたくさん出しました。
それを乗りこえた先でのスカイとプリズムの会話、
闇落ちまでのダークヘッドの巧みな計算も(スカイは他者が傷つけられると余裕をなくす)、
それを無抵抗で解決してしまうプリズムの懐の広さも(精神的な強さはプリズム一強。最強の一人浄化技も会得済)、
丁寧に置かれてきた布石が一気に力を発揮していて、ここまで見てきたファンは納得せざるを得ないものとなっていました。
ウィング「最強のコンビ」
— ジジ (@go_kigo_ki) January 21, 2024
視聴者「ウッ(失神)」
マジェスティ「わたしのナイト」
視聴者「ウッ(心肺停止)」
プリズム「ピシャ~ン(ダークスカイ浄化)」
視聴者「ウッ………………………………(蘇生)」
いろんな意味で「ずっと見てきてよかった!」と思えた話でしたね!
プリキュアの闇落ちはタブーだった
ダークスカイがこれだけ注目を浴びるのは、プリキュアの歴史にも理由があります。
実は、プリキュアでは闇落ちがタブー視されてきたのです。
そのタブーにあえて挑戦するため、様々な工夫が凝らされていることがはた目にも明らかであったため、「よくこれだけ配慮して、これだけ熱い闇落ち→光落ち展開を実現させたな!」と言う意味でも賞賛されているのです。
闇落ちタブー視については後述します。
闇落ちプリキュアがタブー視されてきた原因
20年にわたるプリキュアの歴史の中で、プリキュアの闇落ちが最初に描かれたのは、2005年12月に公開された『映画 ふたりはプリキュア Max Heart 2 雪空のともだち』です。
タイトルの通り、この頃はまだプリキュアも初代のブラックとホワイト、そしてシャイニールミナスの3人しかいない頃。
今作に登場した敵は、温かいものを嫌う氷の魔人フリーズンとフローズン。
彼らはキュアブラックとキュアホワイトに目をつけ、二人の心を氷漬けにして相手を憎むように洗脳し、同士討ちさせたのです。
初代プリキュアといえば、主人公である少女が男性顔負けの肉弾戦を見せることで当時は話題になった作品です。
劇場版という事もあり、バトルアニメさながらの力の入った戦闘シーンも相まって、ブラックとホワイトの戦闘は大迫力となり、それが仇となりました。
今話題のダークスカイ。
— にか (@Nikathanneru) January 22, 2024
めちゃくちゃいい展開なのに出番がやけにあっさりだったり、プリズムの目の前で攻撃を寸止めしてるのは、やっぱりブラックVSホワイトみたいなトラウマ展開を回避しての事なんだろうか……
((続く#precure #ひろプリ#ひろがるスカイプリキュア pic.twitter.com/oHhUtxGHh8
「正義の味方同士が戦う」と言う展開は、ヒーローものの映画等ではありふれた手法ですが、プリキュアのメイン視聴者は女児。
当時、劇場内はこの展開にショックを受け、泣いてしまう幼児が散見され、クレームも来てしまったそうです。
『ふたりはプリキュア』『ふたりはプリキュア Max Heart』のシリーズディレクター西尾大介氏にも遺憾の意を示されたことを受け、今作の企画鷲尾天氏は反省し、以降、プリキュア同志の争いは極力避けられるようになります。
これがただの同士討ちだったらここまで批判されなかったかもしれませんが、
まずホワイトが洗脳され、反撃できないブラックがリンチ状態→弱ったところでブラック洗脳→しばらく同士討ち→ホワイトの洗脳が先に解け、今度はホワイトがブラックにリンチされる
という展開で、「正気の片方が必死に訴えても、もう片方に全く反応が無く一方的に暴力を受ける」という構図が入ったことが問題を加速させてしまったようにも思えます。
プリキュア同志の敵対
だからといって、プリキュア同志が敵対する構図が全くなかったわけではありません。
フレッシュプリキュア! 第43話『世界を救え!プリキュア対ラビリンス!!』
ラビリンスのアジトである洋館にキュアピーチたちが突入した際、キュアピーチたちは「仲間が魔物に見える」幻覚を見せられ、味方を敵だと思い込んで戦うシーンがありました。
キラキラ☆プリキュアアラモード 第27話
ロックバンドでもパティシエ活動でもうまくいかず、周りに嫉妬していたキュアジェラートがエリシオに洗脳され、ロックフェスをつぶすために破壊活動へと走る展開がありました。
プリキュアの闇落ち
主人公チーム以外なら、プリキュアの闇落ちも描かれてきました。
ハピネスチャージプリキュア!
キュアラブリーたちハピネスチャージプリキュアより先にプリキュアとして活動していたキュアテンダー。
キュアテンダーはキュアフォーチュンの実姉でもありますが、ファントムに永い間封印され、クイーンミラージュにより洗脳、闇落ちします。
物語終盤では、キュアテンダーを洗脳したクイーンミラージュ自身が300年前のプリキュア・キュアミラージュがディープミラーによって洗脳、闇落ちさせられた姿だったことも判明します。
『ハピネスチャージプリキュア!』は、主人公チームこそ闇落ちしませんが『プリキュアの闇落ち』に深く切り込んだ作品だと言えるでしょう。
ダークスカイは何が違う?
『映画 ふたりはプリキュア Max Heart 2 雪空のともだち』以降タブー視はされてきたものの、手を変え品を変え『プリキュアの闇落ち』や『プリキュア同志の戦い』は描かれてきました。
それなのに、ダークスカイだけ特別視される理由は、
『主人公プリキュアの闇落ち』を描いたことにあります。
キュアスカイは、作中でも「ヒーローになる」ことを第一目標に掲げ邁進してきたキャラクターでした。
誰よりも正義であろうとし続けてきた主人公が、最終話直前にあえなく闇落ちしてしまうという展開は、かなりギリギリなところを責めた演出です。
丁寧な動機付け
主人公キュアを闇落ちするに向けて、とても丁寧な動機付けがされていました。
まず、キュアスカイは誰よりも正義のヒーローでしたが、その反面、十代の少女らしい弱さも抱えていることを、この一年を通して丁寧に描写してきたのです。
自分が危険を冒すことは顧みませんが、自分以外の人、特に仲間や憧れの人が危険にさらされることを恐れ、一度はそのためにプリキュアとしての力を失くしてしまったことさえありました。
しかし、彼女の弱い面を支えてきたのがキュアプリズムだったのです。
スカイとプリズムは二人がかりでどんな困難も乗り越えてきました。
スカイがここまで戦い抜けたのは、プリズムに背中を預けられたからにほかありません。
プリズムさえいれば、スカイはどこまでも戦い抜けたでしょう。
しかし、プリズムを失う恐怖にさらされた時、スカイは平常心を失い、一瞬、力を求めてしまったのです。
ダークスカイの凄さは見た目だけでなく成るべくして成った神脚本!プリズム助けたくて闇でもいいから力が欲しい。フォームチェンジでなく闇堕ちなのはカイゼリンに力が全てではないと伝えたいのに大事な人のために力を欲してしまい、プリズムに浄化してもらう…凄くね?#ひろプリ #キュアスカイ pic.twitter.com/I8n9Eqlb6p
— よいち (@yoichi66928775) January 23, 2024
5分以内の決着
スカイの闇落ち展開が長引くことで幼児たちの精神的負担が大きくなることを鑑みたのでしょう。
スカイの闇落ち展開は、ものの5分で決着が着きました。
小さいお友達目線重要だよな。大人はダークスカイ絶対好きだけどお子さんからしたら黒くて敵みたいなスカイ嫌なのか。ほんと、プリズムにすぐ浄化してもらえて良かった。#ひろプリ #precure https://t.co/OIF2BHDzHu
— よいち (@yoichi66928775) January 23, 2024
しかし、その5分を「短い」とは言えないほどの濃厚さで、しっかりと見た人の心に刻み付けたのは、ここに向かうまでの丁寧な布石と計算高さ、演出のうまさ全てがそろってこそのものです。
拳は交えない
やはり『主人公チーム内での肉弾戦』を描くことには否定的なのでしょう。
そのためにも、プリズムの包容力、卓越した優しさ、スカイを深く理解し信じる心もまた、一年をかけて丁寧に描写されてきました。
特に、主人公たちにかなり卑劣なことをしてきたバッタモンダーとの交流、それを経て得た個人の浄化技『プリズムシャイン』が無ければ、今回の展開は陳腐なものとなっていたことでしょう。
人質シチュも神脚本。プリズム捕まるの難しいんだよ?ヒーローだから。ヒーロー性損なわずヒロインにできたのは光属性でデバフをモロに喰らったから。しかも最強光属性証明にダークスカイを浄化。ダークスカイ設定が生きる!儚いヒロインとヒーローの両立すごい!#ひろプリ #ソラまし #キュアプリズム pic.twitter.com/dcHVfuQh0I
— よいち (@yoichi66928775) January 23, 2024
『ひろがるスカイ!プリキュア』は、最終局面を描くためにかなり地道に丁寧に布石を置いてきた作品だったことがわかります。
まとめ
プリキュア20周年を飾る『ひろがるスカイ!プリキュア』において、主人公キュアの闇落ちダークスカイが描かれたのは、プリキュアの歴史において大きな意味がありました。
過去作によって長らくタブー視されてきた『プリキュアの闇落ち、同士討ち展開』でしたが、ダークスカイによって風向きが変わりそうですね。
そのためにも一年をかけて丁寧に布石を打ってきた製作陣の計算には驚かされました。
これを機に、プリキュア作品のもっと幅広い演出が増えていくことを期待します!