『ひろがるスカイ!プリキュア』は、2023年度のプリキュアです。
プリキュアシリーズ始まって20周年の節目という事もあり、メインプリキュアのイメージカラーがスカイブルーだったり、プリキュア史上初めての男子プリキュア&成人プリキュアを起用したりと、今までのプリキュアのイメージを変える試みが随所にちりばめられたタイトルとなりました。
プリキュアの過去作を知る人からすれば「プリキュアらしくない」とも言えるそれが、開始当初はネット上でも様々な議論を呼びましたが、2024年1月28日に晴れて最終回を迎えました。
既存のプリキュア像を覆すような挑戦的な面を多々抱えた『ひろがるスカイ!プリキュア』は、結局つまらなかったのでしょうか、面白かったのでしょうか。
ネット上はもちろんのこと、実際にメインターゲット層である幼児たちにはどのように受け取られたのでしょうか。
『ひろがるスカイ!プリキュア』が終わってみてどのような反響だったのかをまとめてみます!
『ひろがるスカイ!プリキュア』の評判
一年を通して描かれた『ひろがるスカイ!プリキュア』の評判は、両極端です!
悪い評判
悪い評判の多くは、やはり過去作にない各試みへ向けられたものが多いです。
コンセプトが多すぎ
20周年ということで、おそらく製作側が今まで「挑戦したいが踏み切れなかったもの」をたくさん詰め込んだことが伺えますが、それらへの反発も多く見られます。
例えば、主人公のキュアスカイが青キュアで、今までの主人公キュアに比べて「女の子らしさ」をあえて避けたようなキャラクターになったこと。
「ヒーロー」を目標に掲げて邁進するキュアスカイは、今までにない主人公となりましたが、それを「感情の起伏についていけない」「ましろの方が主人公っぽい」「感情移入できない」と酷評する人も多くありました。
男子プリキュアであるキュアウィングも「男子である意味がない」「一人で男子・ナイト・賢者・鳥と属性盛り過ぎ」と辛らつな声。
ツバサはとにかく慎重に扱われてた。個人的にはもっと大胆に造形しても良かったと思ってますね。持ってる属性がソラましの2人と遠いからお互いの個人回でイマイチ関係が深まってる感じがしなかった。年下設定もあげツバ以外であんまり生きてなかった気がする。
— えのでん (@E_no_DEN) January 27, 2024
成人プリキュアであるキュアバタフライには「成人年齢が18歳に引き下げられたから成人枠に入っただけで、17歳キュアはすでにいたから新鮮味がない」「アゲアゲうるさくて大人らしくない」「性格的にはキュアショコラやキュアフィナーレの方がまだ大人っぽい」等の声が。
普段は赤ん坊でありながら、終盤から突然プリキュアに変身するキュアマジェスティも「赤ちゃん時とプリキュア時で差がありすぎて、心理面での統一性が無い」というツッコミも。
そんな中、一番普通そうなキュアプリズムも、実は祖母がスカイランド人であるクォーターということで「『普通の女の子』が活躍するのがプリキュアなのに、今期は『普通の女の子』がいない!」との嘆きが。
様々な要素を合わせすぎて、視聴者が最も感情移入しやすいノーマルな要素が限定されてしまった感は否めません。
悪役の掘り下げが無い
今回のプリキュアは、悪役の掘り下げが最小限でした。
まず、その象徴とも言えるお約束の『悪役会議』が皆無だったのです!
『悪役会議』があれば、まだ未登場の内から大体の悪役キャラクターの性格や関係性、その背景をうかがい知ることができるものですが、それを完全に削除されてしまったため、新しい悪役が出るたびにぽっと出に思え「誰だお前」と白けてしまう視聴者も多かったようです。
スキアヘッド以外の悪役は最終決戦時に味方として活躍してくれるというお約束パターンもあったのですが、掘り下げが少なかったり、登場していない内にいつの間にか浄化技を手に入れていたりして「経緯説明が雑」「盛り上がらない」と酷評されています。
私自身、悪役、特にそのトップであるカイゼリンとスキアヘッドの掘り下げが足りないままの最終局面に、正直「盛り上がりが足りないな」とは思いました。
そう、48話までは。最後の2話でその感想がひっくり返るとは思いませんでした。
悪役会議は入れられなかった?
悪役会議を入れられなかったのは仕方が無かった面もあるかもしれません。
最後まで見るとわかりますが、敵国アンダーグ帝国の女帝カイゼリンは、スキアヘッドに意図的に孤立させられ精神的に支配された状態で、恐らくスキアヘッド以外の部下と関係を持てない状態でした。
実質、カバトンたちを動かしていたのはスキアヘッドでしょうが、スキアヘッド自身がカバトンたちを完全に「ただの駒」としか見ておらず、任務の成功不成功のみで判断しており、取り付く島が全く無いキャラクターです。
カバトンやバッタモンダーが追い詰められた時の怯え方から察するに、カイゼリンやスキアヘッドとは『悪役会議』と呼べるような最低限の意思疎通すら成立していなかったことが伺えます。
そして、スキアヘッドがここまで徹底して無情で支配的な様を描写すると、かなり精神的苦痛を感じるシーンになってしまい、幼児向けでなくなってしまうため、掘り下げられなかったのかもしれません。
ただ、カバトンとミノトンがソラシド市に居ついて以降をもう少し見せてほしかった、とは思います。
しかしそれも、カバトン&ミノトンに比べてバッタモンダーのやらかし具合があまりにもひどすぎたので、最後に味方に周らせるためにはバッタモンダーだけは明確な理由付けをしなければいけなかったためにそちらに尺を取りすぎた、という都合があるのでしょうが…
仲良しこよしのぬるま湯
これはひろプリに限らず、多くのプリキュア作品に共通する問題なのですが、
プリキュアシリーズの初期劇場作品『ふたりはプリキュア Max Hear2 雪空のともだち』で描かれた洗脳仲間割れ描写がきつ過ぎて激しい批判を受けて以降、プリキュア作品で仲間同士でのいさかいやトラブルを描くことに過敏になっています。
ひろプリもご多分に漏れず、仲間内で意見が割れたり言い争いになったり、という描写はありませんでした。
そのため、どうしても仲間同士の絆に生ぬるさを感じてしまう人も多くあります。
ここまで過敏になったきっかけの劇場作品を見ましたが、あれがちょっと尖り過ぎていただけで、トラブルを全て盲目的に避けなくても良いのではないか、と個人的には感じます。
乳幼児向けの鉄板作品である「アンパンマン」「しまじろう」「ドラえもん」等ではむしろ、日常的に不仲やトラブルが描かれています。
それを乗りこえたり折り合いをつける姿を見せることにも必要性を感じているからでしょう。
良い評判
様々な点に挑戦した『ひろがるスカイ!プリキュア』ですが、評価する声もたくさんあり、SNS上も最終回に向けてかなり盛り上がりました!!
最終話を成り立たせるための逆算
悪い評価としても上げられるコンセプトの多さや掘り下げの少なさですが、それらは全て最終戦のために必要に迫られたものだったことが最後まで見るとわかる仕組みになっています!
最終戦で盛り上がれなかった人には合わない作品となってしまうのですが、最終戦でハマる人には鮮烈なカタルシスを与えてくれた稀有な作品でもあります。
そのため、「最後まで見ないとわからない」という人を選ぶ評価になってしまうのですが…
ご都合主義、という言葉で片付けてしまうのは惜しいほど、すべてがギリギリのバランスを絶妙に維持し続けて最終戦まで持ってきて、最終戦に全て発揮された、と思える作品でした。
例えば、ソラが「ヒーロー」を強く目指す反面、「自分以外の人が傷つくことを過剰に恐れる」性格であることは、ましろが初めてプリズムに変身したときや、シャララ隊長がランボーグ化したときにも描かれてきました。
それが最終戦の闇落ちダークスカイに繋がってきます。
そして、ましろがあまりにも「優しすぎる」こと。
あれだけの非道を働いたバッタモンダーすら、明確な謝罪もなくとも態度だけ見て許してしまうほどの「甘さ」などは、ダークスカイに拳を向けられた時に「無抵抗を貫く」という強さに繋がります。
この二人の「弱さ」「甘さ」を何度となく描いたことは、苛立ちを感じる視聴者も少なくありませんでしたが、闇落ち展開とそこからの一瞬の救済を描くためには必要不可欠な要素でした。
今作ではこのように、最終局面を成り立たせるための綿密な逆算が縦横無尽に張り巡らされており、よく50話の一作品として成り立たせられたものだと驚かされます。
確かに、もっと掘り下げてほしかったところもたくさんあるのですが、メインターゲット層の年齢と話数を考えるとこれが限界だったのではないかと思います。
クロスオーバー作品で補完してほしいくらいですね!
言外に語る情報が多い
今作はあえて明言せず、仕草や態度、間で言外に語る情報が多い印象を持っています。
たとえば、キュアウィングが「男性である意味がない」と言われることがありますが、そんなことはありません。
まず、わざわざ男性であることを強調しなかったことは「『男性なのにプリキュアになった』ではなくて『夕凪ツバサにはプリキュアになる理由と資格がある』と言う流れで自然にプリキュアになったところに『プリキュアになるのに性別は関係ない』と言うメッセージが込められている」と評価する声もあります。
ツバサくん男プリキュアだけど物語の中でその属性を強調せずに自然にストーリーが進んだのは上手くやってたなーと思う
— おなか探偵 (@running_jisan) January 29, 2024
実際、作中でキュアウィングが男であることがあえて語られることはありません。自然と仲間然としています。
ただ、「命の危機に瀕しての覚醒」というパターンは実はプリキュアでは初めてであり、他作品でも女性向け作品ではあまりなく、男性向け作品で多用されている=男児受けを考えた演出であることが指摘されています。
また、彼のヒーロー像が「落下する自分を助けるために無謀にも飛び降りた父親」であるため、命を懸けることに躊躇が無く、女性プリキュアにありがちな「とにかく諦めない」という無鉄砲な根性論を持たず俯瞰で物を見られるため、現実的な状況判断が素早く、皆を逃がすために一足早く特攻するのはいつも彼です(映画でも)。
キュアバタフライも、常に一歩引いたところから皆を見守っており、大人でも心折れるような場面でも「アゲアゲ!」とあえて明るく振舞ったり、明るく振舞う事すらためらわれる場面ではただそっと寄り添ったり、本人が乗りこえるのをじっと待ったりと、相手に合わせての立ち振る舞いはまさに「大人」です。
絶望的な状況に直面しても、どれだけ反論されても次々と代替案を出せる引き出しの多さと頭の回転の速さも、子どもにはできない芸当です。
18歳は確かに、年齢だけ見たら「大人」と言うには心もとない年齢ではあるのですが、バタフライ自身が「チーム内で唯一の大人」であることを自負しており、他のメンバーを仲間として信頼しながらも「守るべき子ども」として大事にしていることも、言動の端々に現れています。
今作のキャラクターは、セリフだけ見ていたらコンセプトの割には目を引くものが少ないですが、どの場面でどういうタイミングでどんな表情・声色でその言葉や行動を選んでいるのか、注意深く掘り下げると目を見張るほど「ヒーローに憧れる少女」「男らしい少年」「大人の女性」「すべてを受け止める優しい少女」「運命に導かれ成長を余儀なくされた幼子」が見えてきます。
ダークスカイがかっこいい!
プリキュアシリーズで今までタブー視されてきた『メインキュアの闇落ち』が描かれ、SNS上は話題沸騰となり、トレンド入りしました。
わずか5分弱という短い登場でしたが、そこに至るまでの流れも、再び光落ちする理由も、この一年間かけて積み重ねられたものが集約されており、忘れられない5分間を刻み付けられました。
また、元デザインの配色とモチーフを入れ替えただけなのに完成度の高いダークスカイデザインがあまりにもかっこよかったこと、
このダークスカイデザインとの対比を計算してキュアスカイとキュアプリズムのデザインが作られていただろうことが分かり、
脚本・構成・デザインがこのシーンのために作られていたことに気づいた人たちから多くの賞賛が上がりました。
その反面、幼児たちに与えたショックもあまりにも大きく、わずか5分でも「こんなのスカイじゃない!」と泣きじゃくった子どもも出たようです。
大人たちからは「もっと見たかった」という意見もあるほど完成度の高かったダークスカイでしたが、5分という時間も幼児向けとしての配慮だったのでしょう。
幼児の心理的負担への配慮
様々な挑戦に挑みながらも、かたくなにこだわったのが「幼児の心理的負担への配慮」です。
先に書いた闇落ち展開がわずか5分であったことはもちろんのこと、悪役会議を排除しアンダーグ帝国側を掘り下げなかったのは、黒幕の日常的な支配型DVっぷりが幼児には耐えがたいものだったからであることが想像に難くありませんし、
#ひろプリ
— 橋本 (@IaBaBCjKBc44593) February 1, 2024
バッタの印象の変化、悪役会議削減の効果出てる気がする。
これ、悪役会議があったらバッタがいくら外道でも会議の時に可哀想な面が露呈すると思うんよね。本編で、カバトンもミノトンも脅されてバッタは消されそうになってたからね。
ひろプリで、悪役会議をほぼやらなかったことで、敵のトップ、カイゼリンも実は被害者だった、という展開にうまく繋げられた、とも取れるような気が。
— Apple-Laser (@laser_apple) January 30, 2024
結果として、悪役の印象が薄くなり、被害者側になったときに視聴者の「ざまあみろ」的な感情が出てしまうのを避けた形になったのかも。
中盤の大きな山場となったシャララ隊長のランボーグ化、それに伴うソラの変身アイテム消失展開も、わずか2話で決着が着きました。
それを企ててしまったバッタモンダーの救済には何話もかけたのは、それにショックを受けた子どもたちの精神的ケアも兼ねていたのかもしれません。
大人にとっては物足りなく感じますが、繊細な子どもたちにはそれだけでも大きなショックを与え、うちの子たちもかなり動揺していたので、この「きつい展開を短時間で切り上げる」のは妥当だったように思えます。
仮面ライダーや戦隊ものでは描かれる程度のストレスでもプリキュアがここまで過敏になるのは、「仮面ライダーや戦隊ものに耐えられないほど繊細な子たちの受け皿」となっているからかもしれません。
ひろプリ、
— kasumi@ねとらぼにてプリキュア記事連載中 (@kasumi1973) January 28, 2024
さみしいお別れシーンの後、翌日帰ってくる
悪役会議(怖いシーン)をなるべく避ける
闇落ちスカイも週またがず数分だけ、
とか
本当に小さな子ども達にストレスを与えない様、配慮して創られたシリーズだったんだな、と#precure
プリキュアが担う役目、求められるイメージはこれからも大きくのしかかっていくかもしれませんが、
今回のように時にそれを打破して広がりを見せながら、何を守るべきか取捨選択を繰り返して、より良い作品を作り上げていってくれたらと思います。
子どもたちは受け入れていた
さて、最後に、肝心のメインターゲット層である幼児たちはひろプリの様々な挑戦にどんな反応だったのか、と言うと、
自然と受け入れていた子が多かったのが現実のようです。
私の周りでも、普通に当たり前のように人気でした。
女児にはどちらかというとスカイよりもプリズムやマジェスティの方が人気のようでもありましたが、スカイとプリズムのコンビとしての描写が多かったので、二人セットで好かれていたように思えます。
「「多様性」というのは既成概念を持った大人の発想」
— 佐藤結 (@kokeraotoshi) January 29, 2024
すごい…… https://t.co/gO6x5okx7R
ウィングの不人気っぷりをネタにしたがる人たちも多くいましたが、
ウィングアイテムの売れ残り具合は、毎年必ず誰かしらでる過去作の不人気キュアと大差ありません。
正直、もっと売れ残っている不人気キュアもいました。ウィングは目立たない方ではないかと思うくらいです。
戦隊ものの女性キャラだって同じようなものでしょう。
順位をつけたら下の方になるかもしれませんが、必要か不要かで言えば必要であると感じられるほどSNS上の反響は大きかったので、今後も素敵な男子プリキュアが誕生することを願います!
男の子プリキュアがこんなに馴染むとは思ってなかったな〜主人公青にしろ一応成人キュアにしろ大成功よね…
— すいか (@cuamur) January 28, 2024
まとめ
20周年という事で、主人公を青キュアにし、男子プリキュア&成人プリキュアを起用し、と様々な挑戦をした『ひろがるスカイ!プリキュア』。
やはり合う人・合わない人がハッキリ別れたようですが、最後まで完走した人の多くはひろプリだからこその最終決戦に胸を熱くしました。
歴代プリキュアと違う存在感を持つ作品になったため、ひろプリロスを嘆くファンも多く出しています。
ひろプリによって広がった可能性が、またプリキュアの新たな道を開いてくれることを祈っています。
素晴らしい作品をありがとうございました!