『弱虫ペダル』は、高校自転車競技部(ロードバイク)をテーマにした人気漫画です。
アニメ化や2.5次元舞台も成功し、順風満帆のように見える『弱虫ペダル』ですが、2年生編終盤に出てきた川田拓也というキャラが絡んでくる川田編が、今までにない大炎上を呼んだと言います。
様々な濃いキャラが出てきて、中にはルール違反スレスレや態度の悪さで物議を醸すキャラも何人もいましたが、そんな中でも川田編はなぜここまで大炎上したのでしょうか。
今までのキャラと比較してどう違うのか、川田というキャラが嫌われる理由を掘り下げてみます!
川田編が炎上した理由
川田拓也は、主人公である小野田達と同学年です。
今泉と共に入部しましたが、1年生レースで惨敗して退部。
その後テニス部に入部しますが、先輩に恵まれず虐げられ続け、2年の時に髪を染めたことを理由に退部させられます。
そんな時に自転車競技部がインターハイ二連覇、その偉業を成し遂げた小野田が主将になったことを聞き、「小野田なんかが勝てる程度のレベルなら自分でも勝てる」と自転車競技部に再入部してきます。
川田編が炎上した理由は、性格面もありますが、川田拓也が危険行為を繰り返すキャラクターだったことが一番の理由です。
今弱虫ペダル最新刊まで無料で読めるとか神なんですけど。ただ川田のくだりガチでいらねーー。胸糞しか詰まってないしよぉわからん。
— NeRo's趣味垢 (@reon_ghoul) February 20, 2024
最新話どうなってるか知らんがまず間違いなくレギュラーないだろってわかるわ。
1年生レース
まず、1年生編での1年生レース。
川田は桜井と共に追い越し禁止区間で追い越しをします。
「真面目にルールを守っていては勝てない、これは勝負だ」という理論を繰り広げていましたが、その後あえなく今泉、鳴子、自転車をママチャリからロードバイクに乗り換えた小野田らに追い抜かれ失速。
最下位でゴールという結果に意気消沈し、退部します。
杉元との勝負
2年終盤、手嶋・青八木ら3年生が引退したのを見計らったかのように再入部してきた川田。
小野田・今泉・鳴子以外に横柄な態度で振舞う川田がまず目を付けたのは、2年で唯一レギュラー入りしていない杉元照文でした。
その理由は、杉元が常に正論を振りかざすこと、さらには1年生レースの時に一位だった杉元が浮かれ、川田が最下位であることを聞いて「お気の毒」と声をかけたことに恨みを抱いていたからでした。
練習中に川田から杉元のレギュラージャージをかけて勝負を挑まれた杉元は、「自分が勝ったら、他の部員に礼儀を払うこと」を条件に受けます。
しかし、まじめに2年間練習をこなし実力をつけてきた杉元に対し、川田が仕掛けたのは右コーナーで内側を追い越すという道交法違反。
道路を封鎖したレース中以外は禁止されているその行為、その危険性(対向車と接触、衝突する可能性)を説く杉元を鼻で笑い、何度もその違反行為を繰り返したうえで勝利した川田。
その後、勝ち誇ってますます周り(特に杉元の弟・杉元定時)に酷い態度で接するさまに「胸糞」と吐き捨てる読者も多く出ます。
小野田との勝負
杉元に違反行為で勝利して調子に乗った川田の次のターゲットは、主将になったばかりの小野田坂道。
川田が再入部した動悸がそもそも「大した実力が無い小野田が二連覇する程度だから、自分でも勝てる」というものでしたから、さっそく本丸に切り込んだわけです。
「サイクリングに行こう」という名目で小野田を連れ出した川田は、突然レースを挑みます。
この時点で、ハードな朝練後の小野田は万全の状態ではなく、逆に朝練で手を抜いていた川田はウォーミングアップがすんだ最高の状態です。
その上、小野田のクライマーとしての才能は体重が軽いことだと踏んだ川田は、2リットルペットボトルを6本も入れたリュックを背負わせハンデをつけさせます。
しかも、川田のこのペットボトルハンデは、重量だけを意識したものではありませんでした。
急な下り坂直後にガードレールの無いカーブがあることを計算に入れ、重たく重心の高いリュックに振り回されて小野田が落車、転落することまで想定してのものだったのです。
「川田がクソ過ぎて、勝っても負けても地獄なんだけど、どうすんだこれ」と、勝敗より話の収集に注目が集まることになりました。
最終的に小野田の圧勝で、そのうえ勝敗にこだわらずリュックを損傷したことを謝る小野田にあらたな「ヒーロー」像を見た川田は、部に残ることにします。
川田は改心したのか?
しかし川田と杉元の確執はなんだか「ありそうな嫌な話」です。長期連載ですからね。マンネリは困るし主人公の成長に伴う受難を描かないといけない。はてさて。
— 大三角線 (@osankakusen) February 19, 2024
これを恐らく「小野田の影響で川田は改心した」と描写したいのだと思うのですが…私はむしろ、このまとめ方こそ最も危険だと考えます。
川田と小野田の図式は、DVの図式に酷似しているのです。
これを改心と見るのは危険です。ほんの一面を見て「ヒーロー」と仰ぎ心酔するのは依存です。
他害をためらわず、自分の非を認めず、相手に責任を擦り付け、言い訳して逃げ続ける攻撃性の高い人間———平たく言うと加害者メンタルの人間が常に欲するのは、「自分にとって都合の良い依存相手」です。
小野田のような人の良いキャラクターは、まさにそのターゲットになりやすいタイプです。
加害者メンタルの人間は、少しでも自分の理想から外れた面を見つけたとたんに牙をむき、相手に非があると思い込ませ修正させようとするものです。
そうして、相手やその周りを操作し、支配し、君臨しようとするものなのです。
加害者メンタルの人間には徹底して付け入る隙を与えてはいけません。
しかし、この判断は十代の子どもには難しいので、大人がするべきなのです。
コミュニティに残すのならなおさら、常に大人の監視下に置かなければ、目を離したところで何をしでかすかわかりません。
そのために監督やコーチという大人がいるのですが、『弱虫ペダル』世界は大人が機能していないので、最悪な結末となってしまいました。
せめて、今泉がきっぱりと退部させていたらよかったのですが、それができなかったことが川田編最大の汚点だと私は考えています。
やはり反発が相当激しかったのでしょう、川田編以降の川田の扱いは今泉が雑に突き放すになりましたが、この程度で収まると考えている時点で作者はこの川田のようなキャラクターの悪質さを理解できていないと感じます。
犯罪行為を故意に繰り返し悪びれない人間、というものは、それだけ根本的なところが違う危険な存在なのです。
とはいえ、あくまでも創作物なので、どこまでリアリティを求めるべきかは作者の匙加減次第です。
後々、川田を部内に残したことに相応の理由付けがなされれば、川田の評価も変わってくる可能性は大きいです。
動機付けが八つ当たり
弱虫ペダルのお約束ですが、ヒールキャラにも必ずその背景があり、悪行の理由付けがなされます。
川田もご多分に漏れず、ここに至るまでの経緯が語られたのですが、
- テレビで見たプロテニスプレイヤーに憧れ、彼のようなヒーローになるべくテニスの道へ。
- 負けると説教されるのが嫌で、負けず嫌いに(説教(おそらく反省点)は聞かない)。
- 練習しないと勝てないことに気づき、練習はまじめにやった。
- テニスの道で伸び悩み、同じ個人競技である自転車競技部へ。
- 1年生レースで最下位になり、杉元に「お気の毒」と言われ退部。
- テニス部に入部するも、先輩たちがいけ好かない人たちで、テニスも思うほど勝ち進めない。
- 髪を染めたらテニス部を退部になった。
- 1年生レースのときには初心者丸出しだった小野田が二連覇なんておかしい。周りが弱いだけ。そんなに弱いなら自分でも勝てる。
という経緯で……川田が何かとルールを破りたがるタチで、それを指摘されたり正論を言われると逆恨みするという加害者メンタルが明らかになっただけでした。
確かに、杉元が敗者に「お気の毒」と言ってしまったのは配慮が足りませんが、それを今さら蒸し返すのは「テニスでうまくいかなかったいら立ちを体よく八つ当たりしているだけ」のようにも見えます。
実際、杉元はそのことを反省し謝ったのに「謝ればいいと思っている」とさらに食って掛かって取り付く島がありませんでした(謝らせたいわけでないなら、何故今さら杉元に言ったのでしょう)。
今までのキャラと何が違う?
いろんな方面に振り切れた濃いキャラの多い弱虫ペダル。
今までもルール違反に触れたヒールキャラはいました。
そのたびに議論が巻き起こり、中には炎上したものもありましたが、それも含めてむしろキャラとしての魅力も際立ちファンが増えることも少なくありませんでした。
ここまで大炎上し、その上それがキャラ立ちに役立たずただただ嫌われ「川田編いらない」とまで言われるのは川田だけです。
川田と今までのキャラクターは何が違うのでしょうか。
箱根学園 福富寿一
ルール違反と言えば、彼が真っ先に思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか。
小野田達が1年生の頃の箱根学園主将、福富寿一は、プライドの高い男でした。
前年度のインターハイ中、後の総北キャプテンとなる金城真護と1対1の勝負になった際、格下だと思っていた金城の実力に気おされ、焦り、抜かれる瞬間に思わず金城のジャージを掴んで落車させてしまいます。(このことで、一部ネット上では「ゴッドハンド」という肩書がつけられ揶揄されています)
この時金城は肋骨を骨折。その年の総北の成績は振るわず、箱根学園が表彰台を独占することになりました。
ただ、福富はこの時のことをずっと悔やみ続けていました。
落車させた当日もレース直後に謝罪に訪れていますし、インターハイ後も手土産と共に謝罪に来ています。
それに対し、金城は正々堂々とした勝負での和解を望んでいることを知り、翌年のインターハイで互いに最高のチームを結成して勝負に挑むことで雪辱を果たすことに切り替えたのです。
賛否はありますが、言い訳をせず、むしろ1年間悔やみ自分を追い込み続けた姿、その不器用さを好む人も多くいます。
京都伏見 御堂筋翔
弱虫ペダルきってのヒールキャラと言えば、1年の時点で京都伏見を乗っ取った御堂筋翔でしょう。
常に相手の神経を逆なでするように立ち振る舞い、弱みを見せればすかさず攻撃し抉り心を折る。
スポーツマンシップとは真逆の言動に、アンチも多くいます。
ただ、そのストイックさは常に最も自分に対して向けられています。
その理由は、死別した母親との約束である、自転車レースでの勝利を手にするため。
ただただそのために、自分も他人も追い込み続ける彼の姿は、満たされない思いのためへの自傷行為のようにも見えます。
実際にいたら決して許されないような言動もあるのですが、彼の抱える切なさが常にチラつくため、独特の魅力もあり、ファンも多いキャラクターです。
広島呉南工業 浦久保優策
ルール違反と言えば、2年時のインターハイで手嶋・青八木にデスゲームを挑んできた広島呉南工業の浦久保優策も外せません。
思い込みが激しく極端なところがあり、子供の頃父親の漁船に乗ることが好きだったからか、「大物」という言葉に過敏に反応する浦久保。
庭妻繁典と共に自転車競技部に入ってからも、エースの待宮栄吉を「大物」と定め、横からぶつかる乱暴なラフプレーを繰り返し、しまいには待宮を崖下へ落として肋骨骨折をさせてしまいます。
実は浦久保は、漁船を廃業し空っぽになっていた自分を自転車に誘ってくれた庭妻に深い謝意を抱いていました。
その庭妻のために、「自転車競技の大物をしとめたら庭妻が喜んでくれる」と思い込んでおり、
大物である待宮にケガをさせることが彼にとっては「大物をしとめる」という事だったのだというのです。
ちょっとぶっ飛びすぎて常人には理解できない理論なのですが、庭妻によると浦久保は「常人には理解できないタイプの天才」であり、作中の描写的に何らかの障害を抱えているようにも見えます。
思い込みが激しく、善悪の判別がつかないところはありますが、庭妻への謝意も常人の範疇を超えて深く、素直な面もあります。
また、彼を支える庭妻が驚くほどの人格者であり、浦久保を理解し、受け入れ、先導してくれるキャラクターでした。
待宮をケガさせた後、それが「してはいけないこと」だったことをようやく理解した浦久保は、深く反省し、今までとは逆に周りの空気を読み、ついには周りの空気を操作するほどになります。
インターハイ中も、言葉巧みに集団を支配したり、手嶋にセンサーチップを賭けた『スプリントデスゲーム』を仕掛けたりとあくどいことをしましたが、それもすべては「前年度の勝利チームの主将」という大物を庭妻に捧げ、感謝を伝えたいため。
彼が自転車にかけるすべての理由が、庭妻のためなのです。
やり方は間違えていますが、あまりにも一途過ぎて言葉を失うほどの浦久保の純情は、ただ善悪だけでは判断しきれないものがありました。
しかし、やはりいろんな意味で難しかったのでしょう。テレビ東京からNHKに放送局の移った浦久保登場回は、前日に庭妻を巻き込んでの落車・負傷のためリタイアという扱いになってしまいました。
川田編は必要だった?
各所で散々言われるのが「川田編は必要だったのか?」ということです。
終始周りを見下し、神経を逆なでにし続ける川田が出ずっぱりの川田編は「川田編だけ読み飛ばした」という人も多くいるほど。
なぜそんな川田編が入ったのでしょうか。
これだけ読者をいら立たせても入れなければいけないほど必要だったのでしょうか?
2年生編は仲良しクラブ?
2年生編は、手嶋・青八木が主将を務め、二人にスポットの当たることの多いシリーズとなりました。
手嶋・青八木といえば、「前年度レギュラー漏れした先輩」という、扱いの難しいキャラ。
「才能は無い」とあらゆるキャラクターにダメ出しされ続け、それを覆すために「手嶋・青八木がレギュラーである理由」を絶えず求められ続けた1年でもあります。
「才能は無い」と断言されるキャラクターをレギュラーとして「才能あふれる他キャラ」と絡ませ続けなければいけないのですから、これは大変です。
一歩間違えれば「言い訳」「美化しすぎ」と辛らつな評価をされます。
「才能あふれるキャラ」だけで構成された前年度と何かと比較され「前年度の方が面白かった」「手嶋達を持ち上げる展開がだるい」等と酷評する人も多くいました。
それと同時に持ち上がってきたのが「才能の無いはずの手嶋たちが活躍する=全体的なレベルが低く見える」という印象。
そう、川田の「周りが弱かったから小野田でも勝てた」という理論は、恐らくこの一部の読者たちが感じてしまった「全体的なレベルが低く見えた」という印象を公言したものだったのです。
2年生編の手嶋達の扱いにフラストレーションをためた一部ファンたちの溜飲を下げるために、あえて川田という「フラストレーションを代弁」したキャラクターを出し、それを覆す展開を取り入れたのではないでしょうか。
杉元を引き立てるため?
杉元もまた、「才能は無いが努力してきた」という、手嶋達側のキャラクターです。
杉元はそれでも腐らずに、裏方としても全力でサポートしながらも、小野田達に必死についてきて「今泉と一緒にインターハイに出る」ことを夢見てきました。
3年生は、杉元が輝ける最後のチャンスです。
そんな杉元をこき下ろし、ルール違反をして一度下した川田という存在は、逆に言えば杉元の良さを引き立てるこれ以上ない踏み台でもあるわけです。
「杉元を引き立てるために、わざと杉元とは真逆のキャラクターを当て馬にしているのでは」という意見も見かけます。
川田編ってなんのためにあるのかなぁと思ったら多分杉元関連でイベント起こすためでしょう
— 量産型のザク@弱ペダ考察 (@yowapeda_kosatu) February 18, 2024
川田編は原作第何巻?
川田編は、原作でいうと、
今までにない切り口に「読み応えたがあった」と評する人もいます。
ただ、多くの人には、快い話ではなかったようです。
読むのも読み飛ばすのも読者次第ですが、18話にもわたって描かれた話が無意味だとは思えないので、初見の人は「納得できるキャラ・話ではないかもしれない」ことを覚悟のうえで一読してみてほしいと思います。
まとめ
競技ルールだけでなく道交法まで破る川田の行為は大きな波乱を呼び、作中もファンの評判も大きく荒れました。
しかし、弱虫ペダルは読み飛ばしてしまいそうな話やキャラクターが後々深く絡んでくることも多い作品です。
川田編の評価も、もしかしたら今後の展開次第では別の意味を持ってくる可能性があります。
ただ部内を荒らしただけでなく、最終的に意味のある再登場だったと思わせてくれる展開になることを期待します。