「インプレゾンビ」とは、SNS上でインプレッション(閲覧数)を稼ぐために話題のコメントに群がり、意味のない投稿や誤情報を執拗に繰り返す人たちのことです。
X(旧Twitter)が閲覧数を収益に結び付けるシステムを取り入れたことで急増し、著名人のコメントなどを中心に汚染し、迷惑がられていましたが、
能登半島地震などの災害時には、インプレゾンビのせいで実害が多発したため、社会問題と化しています。
しかし、そんなインプレゾンビが教養によって浄化され始めた、という不思議な流れが起きています。
いったい何が起こっているのでしょうか。
インプレゾンビの正体
インプレゾンビ浄化の流れを説明するために、まずはインプレゾンビの背景を知る必要があります。
インプレ稼ぎの仕組み
発端は、2023年7月にX社が導入した、閲覧数に応じた収益が支払われる収益化プログラムです。
次の条件をクリアしているアカウントは、閲覧数が多ければ多いほど収益に繋がるようになっています。
- X Premium(月額1380円)加入
- 500人以上のフォロワー
- 過去3カ月以内の投稿に対するインプレッション(閲覧数)500万件以上
収益化につながるとはいえ、どれだけ頑張ってもせいぜい数千円程度が限度。
そのためにXにかじりつき、意味のない投稿を繰り返すという非生産的な作業は割に合わないと、日本にはあまり定着しませんでした。
インプレゾンビは発展途上国に多い
日本人にとっては「真面目に働いた方が早い」金額でも、発展途上国にとっては月収に相当する金額です。
そのため、インプレゾンビは発展途上国を中心に流行ってしまい、インプレゾンビ同士で繋がりあって、あっという間にXを席巻してしまいました。
日本がターゲットにされる理由
しかし、あまたの国が活用できるXで、なぜわざわざ日本語のポストが狙われるのでしょうか?
理由は、日本人のX利用者数とX活用時間が圧倒的に多いことにあります。
わざわざマイノリティな日本語を探してでも、日本語アカウントに群がることが効率的にインプレッションを稼げるとターゲットにされてしまったのでした。
インプレゾンビの特徴
インプレゾンビの投稿には以下のような特徴があります。
- 意味のない投稿(顔文字だけ、画像だけなど)
- 他投稿のコピペ
- 日本人になじみの薄い言語
一つ二つならスルーやブロックで済む話なのですが、一人沸いたら続々と増えて収拾がつかなくなるので、忌み嫌われる存在となってしまっています。
また、日本語を理解しているわけではなく、ただ注目度の高い投稿に反射的に反応しているだけなので、
訃報などのデリケートな話題に「よかったですね」「おめでとう!」など不適切なコメントをつけたり、
災害時の情報をコピペ拡散して情報元がわからなくなったり、誤情報を乱立させたりなど、具体的な実害も上がってしまっています。
インプレゾンビを誘導する人出現
インプレゾンビが社会問題となる中、2024年5月13日、とある日本人のXユーザーが現れました。
彼は、インプレゾンビたちに「カタコトでもいいので日本語でしゃべりながら地元の料理や音楽とカメラで撮ったもの、自分の日本語学習進捗」を投稿してインプレを稼ぐよう呼びかけ始めたのです。
その人のアカウント名は…すみません、読めません。何語なのかもわかりません。しかも保存エラーまででました。
保存エラー対策も兼ねて、ここではユーザー名で@masayasan201911さんと呼ばせていただきます。
日本語を習得するためにおすすめの書籍なども紹介し続けた@masayasan201911さんの地道な呼びかけに呼応し、本当に日本語で自分たちの生活や文化をポストする元インプレゾンビさんたちが増殖。
それを見かけた日本人アカウントも、日本語で流れてくる目新しい情報に続々とイイネを押し、拡散し始めたのです。
こんにちは、私たちの日本の友人たち、あなたはローストトウモロコシに慣れているはずですが、ロースト梨と一緒に試してみてください。とてもおいしいです https://t.co/AL0kda2bgQ pic.twitter.com/3dEQ1fJFSG
— Aninwene 🦅 (@_Nsznn) May 14, 2024
発展途上国の情報は少ない
自国文化をただ流すだけで注目を集めた背景には、インプレゾンビたちの出身国は発展途上国など、日本には情報の入ってきにくい国がほとんどだったことがあります。
いくらインターネットのおかげで世界中と繋がれるようになったと言っても、普通にネットやSNSをしていても自国以外の文化に触れることは少ないです。
せいぜいが、なじみのある先進国界隈くらいのものでしょう。
しかし、日本語での投稿は当然日本人アカウントのページに表示されやすくなります。
知識のない異国の料理や風景は異彩を放ったはずです。
それも、カタコトでも日本語で発信されていれば、好感を持って受け入れる人も多かった。
これは、素晴らしい相乗効果を産み、浄化ブームが生まれ、NHKにまで取り上げられました。
浄化ブームは一過性のもの
一方、この浄化ブームを評価しつつも「ブームが落ち着いたらまたゾンビに戻るのでは」と心配する人も多くいます。
浄化第一人者の@masayasan201911さんご自身も、そのことに対する心配を口にされています。
ほんとそれなんですよね。一過性の流行で飽きて投げ出さないように最後まで責任持って面倒見るのが大事だと思ってました
— pen (@pokosu235) May 15, 2024
確かにその可能性は高く、根本的な解決にはならないかもしれません。
でも、生産性も無くむやみやたらに迷惑をかけながら思考停止でしていた作業より、自分の発信した情報を評価され、より稼ぐことができた経験は、その人自身の中に残ります。
それは、どこかで別の花を咲かせるかもしれません。
今回浄化された全員が生き残ることは難しいでしょう。すでに再びインプレゾンビに戻ってしまったアカウントもあるようです。
でも、誰か一人でも新たな道に目覚め、夢を抱き、一歩踏み出したいという気持ちを持てたのなら、これは大きな成果なのです。
私はすでに、書籍化を夢見始めた元インプレゾンビさんを見つけました。
もし私が本を出版したら、皆さんはそれを買いますか?
— pAnDoRa 💕😘 (@Rand0mStuffs1) May 19, 2024
この方は引き出しが多く、自国の政治、歴史、神話伝説、ファッション、料理など、さまざまな投稿を繰り広げています。
もしかしたら本当に、元インプレゾンビの人のおかげで発展途上国の情報が増え、書籍が増え、文化交流が深まる日が来るかもしれませんね。
これ始まりがエスペラント語話者で
— とうしゆ 読書熱 (@yanabuchiyanabu) May 19, 2024
しかもザメンホフの意志をしっかり理解してる
そしてそれをインプレゾンビの方達がしっかりと受け取り
皆の幸福に繋がったエモすぎる案件
あまりにも良すぎる https://t.co/ORMbxVRhto
まとめ
閲覧数を稼ぐために迷惑行為を繰り返し増殖する「インプレゾンビ」。
社会問題と化していた彼らが、ある人の呼びかけにより「日本語で自国の文化をポストした方が稼げる」ことに目覚め、浄化されていきました。
この流れがある程度定着できれば、日本にとっても関係諸国にとっても良い循環ができるはずです。
一過性のモノで終わらず、良質なポストが増え、果ては書籍化やメディアミックスにまで影響を与えられたら、素晴らしいことですね。