『異世界コミカライズもう一生描きたくない』という漫画とその作家が炎上する騒ぎとなっています。
X(旧Twitter)を通じて注目を浴びた今作。その作家だけでなく、作家が手掛けたコミカライズの原作者まで巻き込み、大きな騒ぎを起こしてしまいました。
『異世界コミカライズもう一生描きたくない』は、何が悪かったのでしょうか。
『異世界コミカライズもう一生描きたくない』の問題点などをここでまとめていきます。
『異世界コミカライズもう一生描きたくない』とは
『異世界コミカライズもう一生描きたくない話』という出だしでXに投稿された今作。
正しい作品タイトルは『わたくし数十億年ぶりにオリジナルお漫画を描きますわよ!』というタイトルです。
書かれた作者さんは黒渕かしこ先生。
簡単にあらすじを紹介します。
今作を『エッセイマンガ(作者の実体験)』だと思っている人も多いようですが、今作はあくまでも『三ツ星 迷』という創作されたキャラクターを主人公としたフィクションです。
フィクションは面白おかしくするために、あえてオーバーな言い回しや過激なリアクションをさせるのは(漫画だと特に)よくあることなので、
この作品の主人公の言動=原作者の本音ではありません。
そこは混同しないようにご注意ください。
あらすじ
主人公は、漫画家三ツ星 迷(みつぼし まよ)。
オリジナルではなかなか目が出なかったものの、流行りの中世貴族ラブロマンスのコミカライズで注目を浴びるようになった漫画家です。
担当者にも電話で「こっちの方が需要ありますよ~!」と、中世ラブロマンス系の企画が次に控えていることを伝えられますが、三ツ星は「そのお返事少しお時間をいただいてもよろしいかしら?」と返し、電話は終わります。
彼女が返事を濁したのには理由がありました。
依頼をもらえることに嬉しい気持ちはあるものの、その心中を以下のように語ります(原文ママ)。
「お中世ラブロマンスは描き(やり)たくね~~~~~!!!」
はじめは興味がないおジャンルだけれど流行りのおジャンルですし
実際描いたら意外とハマるかも(笑)
なんて軽い気持ちでお引き受けしたけれど
ハマるどころか何が面白いのかわからない!!!
「興味がない」から「死ぬほど興味がない」になっただけでしたわ!!!
『わたくし数十億年ぶりにオリジナルお漫画を描きますわよ!』 黒渕かしこ
その後、オリジナル漫画を描くことを一念発起。
中世ラブロマンスの依頼が来ても「オリジナルで少々多忙でして(笑)」と断れるようになることを目指し、オリジナル漫画を描くために奮闘する……という内容です。
『異世界コミカライズもう一生描きたくない』の問題点
漫画の内容だけ見るとそこまで問題があるようには思えないかもしれませんが、この作品は以下のような問題点を含んでいました。
実際に異世界コミカライズを手掛けてきた作者が書いている
何よりも、これが大きな問題です。
この漫画を描かれた黒渕かしこ先生は、今までに実際に異世界中世ラブロマンス作品のコミカライズを2作品描かれてきた漫画家だったのです。
一つは、『令嬢たるもの、幸せは自分で勝ち取ってみせますわ!~強い女はお好きですか?~アンソロジーコミック 』という、「小説家になろう」作品のコミカライズアンソロジー。
5作品収録されている中の最後の作品『婿探しをしていた夜会で、宰相子息が婚約破棄され私との結婚を命じられていた(原作:ミズメ)』が黒渕かしこ先生の作品です。
もうひとつが、これもまたコミカライズアンソロジーである『悪役令嬢? いいえお転婆娘です アンソロジーコミック 2』に収録された作品、『わたくしは根っからの悪役令嬢ですが、婚約者がエキセントリックすぎて出る幕がありませんわ!(原作:りったん)』です。
せめて、過去にご自身が手を出していないジャンルをネタにしていたら笑えたかもしれませんが、
実際に原作付きで書かれてきたジャンルをそのままネタにしてしまったことで、『わたくし数十億年ぶりにオリジナルお漫画を描きますわよ!』の主人公は原作者の代弁をしているのではないか、と受け取られてしまったようです。
原作者に与える心理的影響
炎上し注目を浴びてしまうと、どうしても原作者の目にも止まってしまいます。
上記したコミカライズ作品『婿探しをしていた夜会で、宰相子息が婚約破棄され私との結婚を命じられていた』の原作者ミズメ先生が、悲痛な胸の内をTwitter上にこぼされていました。
漫画の主人公が必ずしも漫画家と同じ意見であるわけではありませんが、あまりにも漫画家自身と近い背景の主人公にこのような発言をされてしまうと、やり玉にされてしまった原作者がショックを受けるのは無理もありません。
漫画家やイラストレーターは仕事を選びにくい
問題点は多々あるものの、同情すべき点もあります。
漫画家やイラストレーターなどのクリエイターは、仕事を選びにくい土壌ができてしまっている、ということです。
電子コミックやアプリも増えてすそ野は広がったものの、薄利多売が当たり前となり、ほとんど使い捨てられるような非情な扱いも度々問題になっている職種です。
そんな中では、「興味がない」と仕事を断ることが難しいことも多いでしょうし、そうなると「描いてみたら興味がわくかも」と無理やり自分を納得させるしかない仕事を割り振られてしまうクリエイターも少なくないだろうことは、想像に難くありません。
自分の好きなもの、興味のあるものだけ仕事を受けられたら幸せなことですが、そうはいかないのがお仕事です。
接客業にしろ何にしろ、相手を選ぶことは限界があります。
ただ、創作は心が生み出すものです。
書き手に無理をさせ過ぎない最低限の選択肢は与えられるようになると、このような悲劇は減っていくのではないでしょうか。
『異世界コミカライズもう一生描きたくない』のまとめ
『異世界コミカライズもう一生描きたくない』が炎上した理由は、
実際に異世界中世ラブロマンス作品のコミカライズ経験のある黒渕かしこ先生が、異世界中世ラブロマンスコミカライズの依頼に悩む漫画家を主人公にして「何が面白いのかわからない!!!」「死ぬほど興味がない」等と発言させてしまったことが起因でした。
原作者の方にもショックを与えてしまい、2024年11月17日現在、黒渕かしこ先生はXアカウントに鍵をかけて沈下を目指している状況のようです。
仕事をしていると、どうしても苦手な分野を手掛けなければいけないときがあり、それをさらに求められてしまうと「自分が本当にやりたいこととは違う」と悩みを抱えてしまうこともあります。
『わたくし数十億年ぶりにオリジナルお漫画を描きますわよ!』がどこまで作者の本音に近いのかはわかりませんが、黒渕かしこ先生は、謝罪すべき相手にはきちんと謝罪して、改めて作品作りに誠実に取り組んでいただきたいと願います。